2018 Fiscal Year Annual Research Report
極限的環境ストレスから生体を守る分子実体の解明
Publicly Offered Research
Project Area | "LIVING IN SPACE" - Integral Understanding of life-regulation mechanism from "SPACE" |
Project/Area Number |
18H04969
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
國枝 武和 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 准教授 (10463879)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | クマムシ / 乾燥耐性 / 放射線耐性 / DNA保護 / 相分離 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題では、非常に高い乾燥耐性と極限環境耐性を持つクマムシを材料として、極限的な環境ストレスから生体を防護する分子実体の特定とその寄与メカニズムの解明を進めている。本年度はまず、前年度までに同定していたクマムシ固有のDNA防護タンパク質Dsupの作用機序を明らかにするために、原子間力顕微鏡(AFM)を用いてDNA への結合様式を解析した結果、DsupがDNAを連続的に覆うように結合している様子が観察された。DsupはDNA非存在下では主に単量体で存在したことから、DNAと結合したDsupは構造を変化させ隣接部位に次のDsupを呼び込むことで連続的な結合をもたらしていることを示唆した。また、領域欠失Dsup変異体を用いることでDNAへの連続的な結合に必要なドメインを決定した。さらに同様の系を用いてDsupがクロマチンの凝集をもたらすこと、この凝集にはDNA結合領域が必須であることを示し、DsupがDNAとの結合を介してクロマチン凝集を促進することを示した。DsupによるDNA防護は、今回空きからになったようなDNAを覆うような結合様式やクロマチンの凝集が寄与しているものと考えられる。 これまでにDsup 以外にも加熱しても沈殿しないクマムシ固有の耐性タンパク質としてCAHS等を同定しており、これらの多くは水和状態で特定の構造を持たない天然変性タンパク質である。天然変性タンパク質は相分離に関わることが近年盛んに報告されていることから、クマムシの耐性タンパク質候補として、脱水模擬時に相分離するタンパク質を実験的に分離し、ショットガンプロテオミクスにより網羅的に同定した。その結果、300個を超えるタンパク質群の同定に成功した。これらについて細胞内での挙動を解析した結果、ストレス依存に可逆的に高次構造体を形成することを見出した。これらはクマムシの耐性を支える良い候補であるとともに、相分離がクマムシの耐性に重要な役割を果たす原理の1つである可能性を示唆している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
DNA防護タンパク質Dsupについて、そのDNA結合様式やクロマチン構造への影響から防護メカニズムの一端を明らかにした。開始時に想定されていた2つの可能性、(1)酵素活性などによるストレスの軽減と(2)物理的な障壁としての防護のうち、後者を支持する結果が得られている。また、当初の計画には無かったが、新たな耐性候補タンパク質として、多数のストレス依存性相分離タンパク質群を同定した。これらは生体防護に関わる実体分子として有力であるだけでなく、防護原理として相分離の存在を示唆する重要な知見と考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、Dsupについてはクロマチン構造に与える影響を詳細に解明するためにChIP-seq のほか、ATAC-seqやエピジェネティクスなどに与える影響の解析を行う予定である。また今回新たに同定した相分離タンパク質群について、耐性への関与を解析するとともに、相分離と耐性とをつなぐメカニズムを解明する。
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