2018 Fiscal Year Annual Research Report
Transformation of shitukan memory and its neural mechanisms
Publicly Offered Research
Project Area | Understanding human recognition of material properties for innovation in SHITSUKAN science and technology |
Project/Area Number |
18H05006
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
齋木 潤 京都大学, 人間・環境学研究科, 教授 (60283470)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 光沢感 / 視覚記憶 / スタイル変換 / fMRI / 記憶バイアス |
Outline of Annual Research Achievements |
(1)絵画スタイルの高精細な認知に関する研究:画像のスタイル情報についての記憶を検討した。スタイル変換の技術を使い、風景写真に絵画のスタイル(Rembrandt, Monet, Braque, Kandinskyの4種)を適用した。複数のスタイルのブレンド比率を連続的に変化させることで、スタイルが連続的に変化する画像系列を作成した。被験者は提示されたスタイル画像を記憶し、調整法を用いた短期記憶の再生課題を行なった。実験の結果、スタイルによって記憶のされ方にバイアスがあることがわかった。誤答のパターンから、色彩の類似したスタイルは混同されやすいことが示唆された。 (2)質感認知標準課題の画像データベースの活用:物体の光沢の知覚と記憶における照明の変化に対する頑健性を検討するために,銀とガラス刺激,金と黄色プラスティック刺激,そして透明と半透明刺激を用いて知覚課題と記憶課題を行った。照明変化に対する知覚と記憶の最小限の恒常性が確認された。また,恒常性の程度は刺激によって異なることも明らかになった。具体的には、透明/半透明は他の素材質感に比べて照明変化に頑健である。これは刺激の知覚手がかりの違いが恒常性の程度の違いに影響した可能性が考えられる。 (3)光沢感の記憶変容神経基盤:粗さの視覚記憶に関与する神経基盤を検討する課題を行った。検討する脳領域として腹側高次視覚野,頭頂間溝,そして初期視覚野に着目した。粗さの程度が異なる2枚のサンプル球体画像を継時呈示した後,実験参加者は,試行の最後に呈示されるテスト球体画像と保持画像を比較して,粗さの程度が小さい方の画像を選択した。マルチボクセルパターン解析(MVPA)の結果、粗さの視覚記憶に腹側高次視覚野と頭頂間溝が関与することが明らかとなった。粗さの程度のような質感マグニチュード情報が腹側高次視覚野と頭頂間溝で表現される可能性が示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
各研究プロジェクトについて進捗状況の評価理由を示す。 (1)絵画スタイルの高精細な認知に関する研究:スタイル変換の技術の修得、及び絵画スタイルの選択に予想以上に時間がかかったが、その過程で絵画スタイル空間の定量的解析の研究を発見し、理論的に意味のある画像刺激セットを構築することができた。また、記憶バイアスに関して直観的な予想に反する結果を得ることができたことは新たな研究課題となった。全体としては順調に進展していると判断できる。 (2)質感認知標準課題の画像データベースの活用:今まで、記憶課題、知覚課題別々に行われてきた実験を同一の刺激、同一の協力者で体系的に実施することで、質感特性によって照明変化に対する頑健性が異なることを明示できたことは研究の大きな進歩である。他方、銀とガラス、金と黄色に比べて透明と半透明で照明変化に対する頑健性が高いという結果の説明に関してはまだ明確な答えが得られおらず、今後の課題である。これらを総合するとおおむね順調に研究が進展していると評価できる。 (3)光沢感の記憶変容神経基盤:今年度のプロジェクト以前に行った実験では、光沢感と粗さの2つの知覚的質感次元が混在した状況で質感のカテゴリカルな判断が求められていた。この結果を踏まえ、今年度は粗さ次元のマグニチュード情報の記憶が求められる課題を設定し、腹側高次視覚野と頭頂間溝が関与するという共通の結果を得ることができた。このことは、光沢感の視覚記憶においてカテゴリー情報とマグニチュード情報で共通する過程が存在し、それらが初期視覚野ではなく、高次の視覚関連領野で保持されていることを示すものである。ただし、この知見を保持期間中に干渉刺激を提示した場合でも一般化する必要があるが、その点についてはまだ継続中であり、全体としてはおおむね順調に進展していると判断できる。
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Strategy for Future Research Activity |
各研究プロジェクトについて今後の研究の推進方策を示す。 (1)絵画スタイルの高精細な認知に関する研究:まず、画像の類似性によって特異な誤答が生じた可能性があるため、刺激画像セットの類似性を適切に統制した実験を実施して、主たる結果を再現するとともに、画像類似性の影響を排除したデータを得る。また、絵画スタイルの記憶としては、短期記憶課題よりも画像の観察時間をある程度長くとった長期記憶課題の方が生態学的妥当性が高いので、眼球運動計測も含めた長期記憶課題を実施する。 (2)質感認知標準課題の画像データベースの活用:知覚課題と記憶課題の実験データとしては十分に信頼性の高い物が得られたので、今年度は、得られた結果を説明するための枠組みを検討する。具体的には、画像解析やDNNを用いた定量的分析などを用いて、どのような画像手がかりが知覚、記憶課題で用いられているのかを推定し、それによって協力者のパフォーマンスが説明できるのかを検討する。 (3)光沢感の記憶変容神経基盤:これまでに、上述した粗さのマグニチュード情報を記憶する課題に加えて、その課題の記憶保持期間中に顔画像を妨害刺激として呈示する実験も実施したところ、この実験では、体性感覚野の関与など、当初想定していない結果が得られた。今のところ、妨害刺激を用いない実験での知見と妨害刺激を用いた知見を整合的に説明することができず、現在、その原因などを検討している。必要に応じて、追加実験、追加のデータ解析などを行って、保持期間中に妨害刺激を提示することによって記憶過程の何が変化するのかを明らかにすることを目指す。
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