2018 Fiscal Year Annual Research Report
Approach to inverse problems of tactile display using tactile samples
Publicly Offered Research
Project Area | Understanding human recognition of material properties for innovation in SHITSUKAN science and technology |
Project/Area Number |
18H05013
|
Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
三木 則尚 慶應義塾大学, 理工学部(矢上), 教授 (70383982)
|
Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2020-03-31
|
Keywords | 触感 / ディスプレイ / 触感サンプル / 逆問題 / 微細加工 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、触感呈示したいサンプルの物理特性から触感を再現する、触感呈示の逆問題への普遍的な解法を導出することである。ここでの触感は皮膚感覚を指すこととする。触感呈示に関する従来研究では、触覚ディスプレイへの入力信号→呈示される触感導出、という順問題を解いている。しかし、触感を新たにHCIに活用するためには、呈示したい触感→ディスプレイへの入力信号、という逆問題を解かなくてはならない。さらに、逆問題を解くにあたっては、触感の定量化が不可欠である。 本年度は、触感に関係するであろうサンプルの物理特性である、表面粗さ、材料剛性、熱伝導率、表面エネルギー、摩擦係数等について、それぞれを可能な限り独立に変化させた触覚サンプルを、微細加工技術を駆使し製作した。この触覚サンプルを用いた官能試験から、例えば摩擦係数が摩擦感と正の相関を必ずしも持たない、という結果が得られた。この結果が得られたのは摩擦間を連続的に変えられる触覚ディスプレイの開発に依るところも大きい。また得られた結果をまとめて、物理的な特性と触感を対応させた「触感曼荼羅」を製作した。当初表面処理により物体表面の表面エネルギーを変えた触覚サンプルの開発も行ったが、摩擦間に対して大きな影響がないことが明らかになった。また熱伝導率を変化させることで冷温感を変化する冷温感ディスプレイを、液体金属を用いることで実現した。さらに提示するための触覚情報取得につながる、マイクロ・ナノ工学を駆使した触覚センサに関する研究を遂行した。その成果について、国際論文誌(Micromachines)1篇、国内学会(第9回マイクロ・ナノ工学シンポジウム)6件で発表し、また国際学会(Transducers 2019)に2件採択された(2019年度発表予定)。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の当初の目的は、まず、①表面物理特性(表面粗さ・サンプル剛性・熱伝導率・表面エネルギー)を独立して設定可能な触覚サンプルの製作であった。研究グループの有する微細加工技術を用いることで、剛性、熱伝導率、表面エネルギーは同一の材料表面に異なる微細パターン、表面粗さを加工し、また種々の加工方法を駆使し同一の微細パターン、すなわち表面粗さを与えながら、剛性や熱伝導率を制御、またパリレンなどの高分子や金属薄膜の成膜や、紫外光や酸素プラズマなどの表面改質による表面エネルギー制御などを行い、触覚サンプルを開発する。本研究項目については、予定よりも大きな進捗をし、例えば表面エネルギーの摩擦感への影響が小さいことや、摩擦係数が摩擦感を決定するものではない、という新たな発見をすることができた。 一方でもう一つの目標である、開発した触覚サンプルをencodingすることによる触覚ディスプレイ用の信号生成については、とりかかったばかりであり、十分な成果が出ていない。実験系が確立されているので、今後実験を重ねてデータを収集し、触覚呈示における逆問題解決につなげたい。 国際論文誌はセンサに関する1本であり、今後、摩擦感に関する触覚サンプル、ディスプレイや、触覚曼荼羅、冷温感ディスプレイなど、論文発表の準備をしているところである。以上の成果から、おおむね順調と判断する。
|
Strategy for Future Research Activity |
2018年度においては、触感を支配するといわれる凹凸、硬軟、摩擦、冷温感等に対応する触覚サンプルもしくは触覚ディスプレイの開発を行った。2019年度はこれを踏まえ、実サンプルに対する逆問題を実験的に解くことで、触覚特性、認知特性に基づいた普遍的な逆問題解法を明らかにする。そこから、例えば「木」を「木」たらしめるものは何か?触感の本質的な問いに答える。 具体的な研究内容を以下に記す。実サンプルは物理特性の多様な組み合わせによりその触感を呈示している。実サンプルの物理特性は、研究室や、4大学ナノ・マイクロファブリケーションコンソーシアム所有のレーザ顕微鏡、引張試験器、接触角測定により導出可能である。ある実サンプルの各特徴量に対応した入力信号を、表面のEncodingならびに機械学習による特徴量抽出により導出し、実サンプル触感の触覚ディスプレイによる呈示を目指す。まず特徴量に対する各入力信号の線形加算による再現を目指す。触覚ディスプレイを実験的に各入力に対する重みづけを、触覚呈示実験により導出する。もし不十分であった場合は非線形加算を試みる。この重みづけ、非線形性は、ヒト触覚受容器の数、感度等からなる触感特性との相関が強いはずである。その関係を明らかにすることで、任意の物理特性の組合せに対する機械触覚ディスプレイへの入力信号を導出できる。すなわち、普遍的な逆問題の解法を導出することができる。その妥当性について、触覚サンプル、実サンプル、また外挿したバーチャルな表面の呈示により、評価する。 以上のように導出した、重みづけ、非線形性は、触覚を用いた物質の認識、認知特性を表している。すなわち、例えば「木」の触感から「木」と認識するということがどういうことなのか、「木」を「木」たらしめるものは何か?触感の本質的な問いに挑戦する。
|