2018 Fiscal Year Annual Research Report
ヒトの言語進化と法進化の連動性研究:言語・道徳・法の進化と実証的「神経法学」
Publicly Offered Research
Project Area | Studies of Language Evolution for Co-creative Human Communication |
Project/Area Number |
18H05085
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Research Institution | Hosei University |
Principal Investigator |
和田 幹彦 法政大学, 法学部, 教授 (10261942)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 法の進化 / 神経法学 / fMRI実験 / コンピューターシミュレーション / 動物行動学 / 進化言語学 / 進化生物学 |
Outline of Annual Research Achievements |
「法の進化と言語進化の連動性」がテーマである本研究では、まず「法」の定義(作業仮説)も以下の通り刷新した:「a 集団規範でありb 違反者は検知され、c 直接の利害関係のない第3者によりd 一貫性のあるe 罰を与えられる システム」である。 2018年度には、申請当初から予定している意図共有「無し」「有り」の条件下で行うコンピューター・シミュレーション(CS)と、fMRI計測の予備実験が進んでおり、双方のデータを統合して行う”Neuro-based Multi-agent Simulation”(2019年度)の準備を行った。研究協力者であるDr. Marco Campenniは、2014年の共編著書、Minding Norms中で、規範の進化をCSにより論証した。その延長上で先行研究が皆無の「法の進化」過程の全容をCSで解明する新研究を和田と2018年度に開始し進行中である。 申請時から予定している「神経法学」の分野では、我々はKrueger & Hoffman 2016の研究成果を超え、意図共有の有無による「法的思考」の脳内活動をCSと合同で検証する予備実験を現在進行させている。 進化生物学に基づく「法の系統発生・進化」研究も行った。すなわちモデル動物研究は「ヒト以外にも法が進化したなら適応的であったのか、逆に発見不可能なら、なぜ・いかにヒトにのみ法が進化したか(予想として言語による意図共有が重要な要因)」の各々の解明の手がかりを供する。ただ、現時点ではヒト以外の動物集団の法は未発見である。そこで我々は、法のabcdeの全要素が揃う「先駆型」の発見を、チンパンジー集団などで2019年度に試みる。 和田は研究協力者と共に、以上の研究諸分野の文献を渉猟し、2019年度の研究計画を構築した。すなわち「生物学としての法学」「生物学としての言語」、各々の進化を研究し、両者の連動性を検証する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2018年度の初年度には、予定通り、意図共有「無し」「有り」の条件下で行うコンピューター・シミュレーション(CS)と、fMRI計測の予備実験が進んでいる。特にCSにおいては、新たに研究協力者に加わった、東京大学大学院理学系研究科・博士課程1年生の高橋拓也氏が、イギリス・エクセター大学のポスドク研究協力者であるDr. Marco Campenniと、そのラボの研究主任である「文化進化」の専門家、Dr. Thomas Currie (Senior Lecturer)を2週間にわたって訪れたうえで、集中的なCSのトレーニングを受けることができた。Dr. Campennni以外に、当初の研究協力者にはCSの特殊言語(例:EMIL-A)を理解できるものが(和田をはじめとして)いなかったため、高橋氏の渡英と集中トレーニングは、今後の本公募研究に大きな貢献となる。 「神経法学」の分野では、”Neuro-based Multi-agent Simulation”の予備実験(行動データの収集と分析)が着実に進んでいる。 進化生物学に基づく「モデル動物研究」では、チンパンジー集団の研究に加えて、アルゼンチンアリの「スーパーコロニー」でも「利害関係のない第3者である個体による、ワーカーポリシングが、法のabcdeの全要素を満たす法現象ではないか」という問いを立て、アリ研究の研究協力者を得ることを前提に、研究体制が整った。
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Strategy for Future Research Activity |
上記に加えて、以下の分野の研究協力者を募り、研究を進める: 発達心理学:ヒト幼児に新規発見された「協力行動」の発達段階で a規範の形成を射程に入れてc第3者 e罰を検証する実験を3, 5歳で行い(Li & Tomasello 2017)、Gummerum & Chu 2014は8, 12, 15歳, 成人を対象にc 第3者 e 罰 ゲームを実施した。これらに欠ける「法の先駆型(から完成型への移行)」研究を行う。 法人類学:Hoebel(1954)以後、研究の蓄積はあるが、1983年のMead vs. Freemanの論争以来、《文化人類学はquantitativeな分析がないため、説得力を欠く》という批判が広がった。影響は「法人類学」にも直接及び、信頼性が低下した。その中でも、Hoebel(1954)の「法」の定義は、(bは自明として言及せず)「c 第3者」の代わりに「執行の特権を社会的に承認されて持つ個人ないし集団 」すなわち「垂直罰」を定義としているものの、和田の定義と機軸を一にする。その後のRoberts(1979)は、やはり定量的分析はないが、《法の進化の決定的要因(コンピューター・シミュレーションの可変数)の1つは、集団の資源(食料)の多寡である》という和田の現時点での仮説を強く支持する研究であり、この知見を活かして、「神経法学」の新たな実験デザインを構築する。 文化人類学(法人類学への批判を踏まえ):研究協力者・東京大学総合文化研究科博士課程2年生の土田まどかは、インドネシア・バリ島ブンカラ村という遺伝により聾唖者の比率が世界の15倍であるが「健常者」も含めて80%が手話を話す村で、数か月のフィールドワークにより手話による意図共有と芸術性の研究を開始しており、これをさらに推進する。
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Research Products
(11 results)