2018 Fiscal Year Annual Research Report
分子性触媒コンポーネントを融合させた太陽光水分解用光電気化学セルの開発
Publicly Offered Research
Project Area | Creation of novel light energy conversion system through elucidation of the molecular mechanism of photosynthesis and its artificial design in terms of time and space |
Project/Area Number |
18H05171
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
酒井 健 九州大学, 理学研究院, 教授 (30235105)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 光電気化学セル / 太陽光水分解 / 起電力 / フェルミ準位 |
Outline of Annual Research Achievements |
我々は、ルテニウム錯体色素を修飾したTiO2電極(アノード)と白金ポルフィリン水素生成触媒を修飾したTiO2電極(カソード)を導線のみで接続した外部バイアスフリーの分子性色素増感光電気化学セル(分子性DSPEC)において、犠牲還元剤の存在下、アノードに可視光照射を行うと、カソード上において水素生成触媒反応が進行することを報告した。本年度は、この分子性DSPECにおいて起電力が生じる理由、すなわち、高エネルギー電子がアノードからカソードへ移動する理由を明らかにすることを目的として研究を行った。 この外部バイアスフリーの分子性DSPECにおいて、両極の電極電位の差(起電力)を観測したところ、暗所下においては電位差が生じていないのに対し、アノードへ可視光照射を行うと、28μV程の電位差が生じることが明らかとなった。この電位差は、可視光照射のオンオフに対して迅速に応答すること、カソードに白金ポルフィリン無しのTiO2電極を用いた場合においても観測されること、そして犠牲還元剤を含まない電解液を用いた場合には観測されないことが明らかとなった。すなわち、この起電力はアノード上における連続的な光化学反応に由来するものであることが判明した。 ルテニウム錯体色素を修飾したTiO2電極を犠牲還元剤を含む電解液中に浸漬し、Ar雰囲気下において可視光照射を行ったところ、可視~近赤外領域(500~1200 nm)に及ぶ非常に広い波長範囲において、吸光度の増大が観測された。この結果は、可視光照射によってTiO2伝導帯に高エネルギー電子が充填されたことを示しており、これに伴ってTiO2のフェルミ準位が上昇することが判明した。従ってこの外部バイアスフリーの分子性DSPECにおいては、アノードのTiO2伝導帯への高エネルギー電子の充填に伴うフェルミ準位の上昇が、起電力として作用していることが明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題においては、ノンバイアス太陽光水分解を駆動できる分子性色素増感光電気化学セル(分子性DSPEC)を開発することを目標としている。この目的を達成するためには、アノード上における光酸素生成反応による高エネルギー電子の捕集、アノードからカソードへの高エネルギー電子の移動、およびカソード上における高エネルギー電子を用いた水素生成反応、の3つの反応を外部バイアスを印加せずに効率良く進行させなくてはならない。我々は、TiO2を両極に用いた分子性DSPECにおいて、アノードからカソードへの高エネルギー電子の移動、およびカソード上における高エネルギー電子を利用した水素生成反応の2つの反応が、外部バイアスの印加を必要とせずに進行することを見出している。本年度は、アノードからカソードへ高エネルギー電子が移動する理由、すなわち、この分子性DSPECにおける起電力の起源を明らかにすることに成功した。 一方、色素分子と酸素生成触媒分子を修飾したTiO2電極(アノード)上における光酸素生成反応を効率良く進行させるためには、TiO2伝導帯下端の電位、錯体色素の基底状態および励起状態の酸化電位、さらに酸素生成触媒による触媒電流の立ち上がり電位、の4つの電位を最適な値に制御することが必要不可欠である。本年度は、これら4つの値の精密制御に取り組んだ結果、効率の良い光酸素生成反応の達成に向けて、より小さな過電圧で酸素生成触媒反応を駆動できる触媒分子が必要である事が判明した。従って次年度は、触媒電流の立ち上がり電位がより負電位側に位置する酸素生成触媒分子の開発に取り組むことによって、本研究課題の目的であるノンバイアス太陽光水分解を駆動できる分子性DSPECを達成できると期待される。以上のように本研究課題は、当初の計画通り順調に進んでいると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
「これまでの進捗状況」に記したように、次年度はより小さな過電圧で酸素生成触媒反応を駆動できる触媒分子の開発に取り組む計画である。本年度の研究結果より、中性条件下における酸素生成触媒反応の立ち上がり電位が1.0 V vs. SCE程度であれば、アノード上における光酸素生成触媒反応が効率良く進行すると予測されることから、この条件を満たす新規酸素生成触媒分子の開発を行う計画である。 一方、アノード上における光酸素生成反応をより効率良く進行させるためには、TiO2伝導帯に充填された高エネルギー電子による酸素生成触媒分子の還元反応(逆電子移動反応)を抑制することが重要である。そこで、この逆電子移動反応を抑制するため、酸素生成触媒分子とTiO2表面とを空間的に隔離するスペーサー導入型酸素生成触媒の開発も併せて行う計画である。触媒電流の立ち上がり電位をより負電位側にシフトさせ、スペーサーの導入によって逆電子移動反応を効果的に抑制することができれば、アノード上における光誘生成反応がより効率良く進行すると期待される。 以上の研究から得られた成果を組み込む事によって、研究期間内にノンバイアス太陽光水分解を駆動できる分子性DSPECが開発できると期待している。
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Research Products
(24 results)