2018 Fiscal Year Annual Research Report
光合成のPCET機能を模倣したルテニウム錯体による高効率光酸素発生系の構築
Publicly Offered Research
Project Area | Creation of novel light energy conversion system through elucidation of the molecular mechanism of photosynthesis and its artificial design in terms of time and space |
Project/Area Number |
18H05179
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Research Institution | Rikkyo University |
Principal Investigator |
和田 亨 立教大学, 理学部, 教授 (30342637)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 水の酸化 / 錯体 / 触媒 / ルテニウム / 人工光合成 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、熱力学の平衡電位近傍の電位で水の四電子酸化を触媒する錯体の開発を目指し、天然の光合成酸素発生中心の仕組みを組み込んだルテニウム錯体触媒の開発を行っている。平成30年度は、酸素発生中心のマンガンクラスターと水素結合したチロシン残基と同様に、分子内にフェノール部位を有するルテニウム錯体1の合成に成功した。このルテニウム錯体1を触媒に用いて電気化学的な水の酸化を行ったところ、フェノール部位をもたないルテニウム錯体と比較して、過電圧は150 mV低下し、反応速度は6倍に向上した。さらに、分光電気化学測定により反応機構について重要な知見を得た。これらの結果から、触媒分子内のフェノール部位が反応条件下で酸化されて生成するフェノキシルラジカルが、過電圧の減少と反応速度の向上を同時に実現する上で、重要な働きをしていることが分かった。また、光合成酸素発生中心およびチロシンと水素結合で連結しているヒスチジンとおなじイミダゾール基を有するビベンゾイミダゾール配位子とする二核ルテニウム錯体触媒2の合成にも成功した。電気化学的な水の酸化に対する触媒活性について、錯体2と対応するイミダゾール配位子を持たない錯体を比較したところ、過電圧が150 mV低下し、反応速度は8倍の向上がみられた。水溶液のpHと反応速度の関係について詳細に検討したところ、ビベンゾイミダゾール配位子からのプロトン解離が過電圧の減少に、そのプロトンの再結合が反応速度の向上に役立っていることが分かった。これらの研究成果については、International Conference on Coordination Chemistry (ICCC2018)で発表し、現在は国際的な論文誌への投稿に向けて論文執筆中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
フェノール部位を有するルテニウム錯体触媒1およビベンゾイミダゾール配位子を有する二核ルテニウム錯体2の合成は難易度の高いものであったが、順調に合成することが出来た。いずれの錯体触媒を用いた水の酸化反応においても、新たに開発した配位子が想定通りに触媒活性を向上させる効果があることが分かった。フェノール部位を有する錯体1では、分光電気化学測定により反応活性種の特定につながる重要な知見が得られている。pH8以上のアルカリ性水溶液中でのみ錯体1は高い触媒活性を示すことも明らかになったが、フェノール上の置換基を改良することにより、中性付近の条件でも高活性な触媒を実現できると考えている。錯体2の研究において、当初はビイミダゾール錯体を合成したが反応条件下で分解することが分かった。そこで、ベンゼン環が結合したビベンゾイミダゾールに変更したところ、分解することなく安定に高活性を保ち続け、触媒回転数は3,000回以上、ファラデー効率96%を達成した。以上のように、幾つかの問題点が生じたが、有効な打開策を見出すことが出来た。さらに、平成31年度に向けて、触媒の改良点も明確である。以上の理由から、研究は順調に推移していると判断している。
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Strategy for Future Research Activity |
フェノール部位を有するルテニウム錯体1は、フェノール基が反応条件下で分解することを抑制するために嵩高いtert-ブチル基を導入している。平成30年度の結果から、tert-ブチル基の疎水性と電子供与性のためにフェノールのプロトン解離が起こりにくいことが示唆された。そのため、触媒が活性を発現するためにpH8~10のアルカリ性条件が必要になったと考えている。天然の光合成酸素発生中心では、チロシン残基のフェノールとヒスチジン残基のイミダゾールが水素結合することにより、マンガンクラスターからのプロトン移動を効果的に行っている。この仕組みを模倣し、錯体1のフェノール基にイミダゾリル基を導入した錯体3を合成する。このイミダゾリル基とフェノールのプロトンリレー効果によりフェノールからのプロトン解離が容易になる。芳香族性を有するイミダゾリル基は、フェノール部位と共役することにより、フェノールのpKaが小さくなることも期待できる。その結果、フェノールのプロトン共役電子移動反応(PCET)反応が進行し、中性条件下でも触媒活性を示すと考えている。二酸化炭素還元と組み合わせた人工光合成系を構築するために、炭酸緩衝溶液のpH6.4付近の条件で、200 mV程度の過電圧での水の酸化を目指す。さらに、錯体1~3と光増感剤[Ru(bpy)3]2+を組み合わせて、光化学的な水の酸化反応についても検討を行う。また、ビピリジン上にカルボン酸を導入した錯体5を合成し、水溶性を付与すると共に、半導体光触媒上に錯体触媒を担持した水の酸化触媒系を構築する。
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Research Products
(10 results)