2019 Fiscal Year Annual Research Report
現代レバノンのマロン派にみるアイデンティティ再編と社会関係
Publicly Offered Research
Project Area | Establishing a new paradigm of social/human sciences based on rerational studies: in order to overcome contemporary global crisis |
Project/Area Number |
19H04512
|
Research Institution | Tokyo University of Foreign Studies |
Principal Investigator |
池田 昭光 東京外国語大学, アジア・アフリカ言語文化研究所, 研究員 (10725865)
|
Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2021-03-31
|
Keywords | レバノン / キリスト教徒 / マロン派 / 都市空間 |
Outline of Annual Research Achievements |
2019年度は、現代レバノンのマロン派キリスト教徒のアイデンティティについて、基礎的なデータを得るべく、首都ベイルートでの人類学的フィールドワークを中心に行った。 8月に実施したフィールドワークでは、(1)当研究課題に関する文献資料収集、(2)調査対象者・協力者との関係構築、(3)マロン派の集住地区に関する基礎的調査(都市的環境、社会関係など)を重点的に行った。 (1)の成果としては、特にベイルート・アメリカン大学において、マロン派ないしはキリスト教徒の多い地区に関する未刊行の学位論文の収集を実施した点があげられる。これらを通じて、住環境や都市空間自体が、おそらくはグローバリゼーションの影響を受け変動しつつあることがうかがえた。(2)の成果としては、今後の調査研究に協力的な複数名の人物を訪問し、研究目的の理解を得たことが挙げられる。また、これら協力者のライフヒストリーやベイルートにおける生活の記憶についてもいくらかの聞き取り調査を行うことができた。(3)の成果としては、特にキリスト教徒地区のうち再開発が取り沙汰されている地区を重点に観察および聞き取り調査を行った。その結果、マロン派が置かれている社会経済的環境のうち、資本主義を通じた都市空間の変容を考えるべきなのではないかという着想を得ることができた。 また、「グローバル関係学」科研プロジェクト全体の成果報告論集についても執筆者に加わり、打ち合わせを通じて本研究課題が行う学術貢献および社会への成果還元の方向性について、一定の見通しを得ることができた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
8月に実施したフィールドワークにおいては、計画通りの成果を得ることができた。すなわち、マロン派キリスト教徒のあいだに調査協力者・今後の調査対象者を得、ベイルートでの予備的な調査を行うことで調査トピックを絞り込み、関連する文献資料を収集するという、フィールドワークの第一段階についてバランスよく成果をあげることができたと言えよう。 また、「グローバル関係学」科研プロジェクト全体の成果報告論集についても執筆者に加わったことで、2020年度あるいはそれ以降における成果公開についても、その機会を得ることが可能となった。 その反面、8月の成果を踏まえて3月にもフィールドワークを実施する予定であったが、日本およびレバノンにおけるコロナウィルスの流行拡大を受け、渡航によりコロナウィルスを無自覚のうちに拡散させる可能性を考えると、調査対象者・協力者に対して守るべき調査倫理に抵触するのではないかと考え、渡航は控えるべきと判断し、フィールドワークを中止した。 そのため、不可抗力的な外的要因により本研究課題を深化させるデータを得ることがかなわず、進捗については「やや遅れている」段階と判断した。
|
Strategy for Future Research Activity |
2020年度は、2019年度に中止したフィールドワークをカバーしうるような現地調査を行いたいと考えている。ただし、2020年6月現在、コロナウィルスの感染流行については予断を許さない状況にあり、実現の可能性は高いとは言えない。 仮にレバノンでのフィールドワークが行えない場合は、海外渡航を断念し、文献を通じた予備的な調査に方向性をシフトすることも視野に入れざるを得ないだろう。
|