2019 Fiscal Year Annual Research Report
非対称化を伴う配位駆動自己集積により形成される超分子錯体の機能開拓
Publicly Offered Research
Project Area | Coordination Asymmetry: Design of Asymmetric Coordination Sphere and Anisotropic Assembly for the Creation of Functional Molecules |
Project/Area Number |
19H04559
|
Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
中村 貴志 筑波大学, 数理物質系, 助教 (90734103)
|
Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2021-03-31
|
Keywords | 超分子 / 錯体 / 自己集積 / 非対称化 / 配位結合 / シクロデキストリン / ビピリジル / 分子認識 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、金属イオンと有機配位子を構成要素として、それらの非対称化を伴う配位駆動自己集積により超分子錯体を合成し、機能開拓を行うことを目的とした。研究代表者は前回の公募研究(2017年度~2018年度)で、等価な7つの2,2´-ビピリジル (bpy) をアミド基を介してピラノース環に導入したシクロデキストリン誘導体Lを配位子として用い、隣り合わない1,3,5番目のbpyで選択的に錯形成したキラルな単核錯体1,3,5-fac-Λ-[L・M] (MはZnやFe) の合成に成功した。2019年度では、この亜鉛単核錯体に存在する、金属と配位していないフリーのbpyを利用して、分子間の錯形成を試みた。亜鉛単核錯体1,3,5-fac-Λ-[L・Zn]はその6番目のbpyのみが外側に飛び出した構造をもつ。亜鉛単核錯体とFe(II)との錯形成の結果、3つの単核錯体の各bpy基が[Fe(bpy)3]錯体の形成によって連結された、巨大かつ非対称な構造を持つ三量体錯体を単一成分として得ることに成功した。さらに、各種2次元NMR測定や円二色性測定による解析から、3つのシクロデキストリンを連結する[Fe(bpy)3]錯体はmer-Δ体であることが示された。 また、鉄単核錯体1,3,5-fac-Λ-[L・Fe]の非対称な内孔では7つのアミド基がすべて異なる環境にある。これを活かして、内孔における水素結合によるキラル分子認識の検討を行った。鉄単核錯体と種々のアミノ酸アニオンの相互作用について検討した結果、D体/L体のうちD体を特に強く包接するという顕著な選択性が確認された。D-ロイシンアニオンを包接した錯体の溶液中における構造を、各種2次元NMR測定に基づいて解析した。その結果、包接アニオンがアミド基と多数の水素結合を形成し、位置と向きを固定されて捕捉される精密な認識様式が明らかとなった。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
2019年度には、等価な7つのビピリジルアミド基をもつシクロデキストリン配位子の錯形成により、巨大かつ非対称な構造を持つ三量体錯体を単一成分として得ることに成功した。三量体錯体は3つのシクロデキストリン配位子の21つのビピリジルアミド基がすべて異なる化学環境にあるヘテロオリゴマーである。すなわち、等価な単量体ユニットをもつホモオリゴマーである配位子Lから、複雑で巨大な構造をもつヘテロオリゴマーである3量体錯体の一義的な構築に成功し、これは集積型錯体や配位空間における非対称性の構築を目指す本領域「配位アシンメトリー」に大きく貢献するものである。 さらに、鉄単核錯体の非対称な分子骨格を利用したキラル分子認識に成功し、その詳細な機構を解明することができた。いくつかのアミノ酸アニオンに対してはD体とL体の結合定数が5倍以上異なる顕著な選択性を示し、錯体構造の非対称性を活かした機能を実現できた。
|
Strategy for Future Research Activity |
2019年度で得られた巨大かつ非対称な構造をもつシクロデキストリン三量体錯体について、2020年度は、シクロデキストリン環内孔や単量体ユニット間のポケットを利用した、特異な分子認識能や高選択的触媒反応の実現を目指す。また、ビピリジルアミド基の導入数を変更したシクロデキストリン誘導体を合成し、非対称化を伴う配位駆動自己集積による超分子錯体形成のための指針を確立する。また、アミド基を多数導入したシクロデキストリン誘導体の非対称性を利用したアニオン認識の研究をさらに展開するとともに、分子二重膜を介してアニオンを輸送するアニオントランスポーターとしての機能探索を行う。 また、研究代表者はこれまで内孔に複数の金属を固定集積した大環状錯体Zn-hexapapの合成と、それをカルボン酸により架橋した波状積層2量体の形成を報告している。2020年度は、hexapapと金属イオンの組合せを種々検討し、新規な大環状多核錯体の合成と、その積層多量体の精密構築および機能開拓を目指す。
|