2019 Fiscal Year Annual Research Report
糖鎖間相互作用のアシンメトリックな階層構造の解明と制御
Publicly Offered Research
Project Area | Coordination Asymmetry: Design of Asymmetric Coordination Sphere and Anisotropic Assembly for the Creation of Functional Molecules |
Project/Area Number |
19H04569
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Research Institution | Japan Advanced Institute of Science and Technology |
Principal Investigator |
山口 拓実 北陸先端科学技術大学院大学, 先端科学技術研究科, 准教授 (60522430)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 糖鎖 / NMR / 多価相互作用 / 過渡的相互作用 / ランタニド |
Outline of Annual Research Achievements |
非対称配位圏を生み出す分子群としての糖鎖に着目している。本研究では、糖鎖の生命機能発現機構の詳細を解明するとともに、糖鎖が秘める配位アシンメトリーの生物学的要素を物質化学の機能設計指針へと還元することを目指している。 細胞間接着に代表される糖鎖の生物機能発現プロセスでは、金属イオンの配位とクラスター化による多点相互作用が重要な要素となっている。2019年度では、細胞間の接着において重要な役割を担う分岐型糖鎖を対象に、糖鎖のタンパク質親和性を制御することを行なった。常磁性ランタニドイオンを活用したNMR計測と、大規模分子シミュレーションによる動的構造解析を基に、立体配座を改変する人工配列をもった糖鎖を創出した。その結果、化学合成した糖鎖の、対象タンパク質に対する親和性を顕著に向上させることに成功した。また、新規常磁性プローブを応用した相互作用解析法や、固体NMR技術を使った糖鎖の解析法の基盤を築くこともできた。 さらに、神経細胞上の糖鎖構造をモデルとした人工糖脂質の開発と、それを用いた機能性糖鎖クラスターの開発にも取り組んだ。まず、脂質膜上でネオ糖脂質へと変換可能な糖鎖カートリッジの設計と合成を行った。調製した糖鎖カートリッジを水中で脂質分子と反応させることで、人工糖脂質の生成にともなうジャイアントベシクルの自発的な形成に成功した。この際、用いる糖鎖構造によってベシクルの形態が変化することを見出した。また、糖鎖間の相互作用を通してベシクルの曲率が制御されることが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、糖鎖機能の発現機構解明と新たな機能創発という本研究目的の達成に向け、研究期間を通して「糖鎖の化学合成と修飾」、「糖鎖間相互作用の構造基盤解明」、「糖鎖集積による細胞様機能の創出」に取り組んでいる。 2019年度には生理活性糖鎖の化学合成とカートリッジ化に取り組み、配座空間制御によってタンパク質への高い親和性を獲得した人工糖鎖や、細胞様サイズのベシクルを自発形成する人工糖脂質の合成を達成した。こうした結果は、生体内での糖鎖の役割や機能メカニズムの解明にも繋がるものであり、生体膜を模倣した人工脂質膜やモデル細胞の開発において、糖鎖構造に由来する新たな機能の付与や制御を行うことも期待できる。また、新規常磁性プローブの調製と糖鎖への導入を行い、相互作用解析法の基盤を築くこともできた。こうした成果の一部については、各種国内学会や学術雑誌にて発表することができた。さらに、NMR法を利用した超分子錯体の構造解析など、領域内共同研究にも着手している。以上のように、本研究の進捗状況は順調に進んでいる。
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Strategy for Future Research Activity |
引き続き、糖鎖の相互作用解析を進めるとともに、ジャイアントベシクルへの糖鎖組み込みと機能制御を行う。糖鎖相互作用解析では、高磁場NMR計測とともに、レプリカ交換分子動力学法による分子シミュレーションを活用する。さらに、ナノ空間を利用した糖鎖の構造解析も実施する。一方、細胞様機能の創出へ向けては、合成した糖鎖カートリッジを用いて糖鎖を集積化し、糖鎖が担う分子認識能などを付与した糖鎖クラスターを創出する。神経細胞に存在するガングリオシド型糖鎖を主なグライコトープとし、脂質膜上で複合糖質構造へと変換可能な分子システムへと組み込む。さらに、これらのネオグライコ分子をマイクロメートルサイズのジャイアントベシクルへ導入することで、人工細胞モデルの創出に取り組む。また、NMR法を中心とした技術基盤を活用し、領域内外との共同研究を推進していく。本研究によって得られる成果に関しては、学術雑誌、学術集会においての発表に加え、ホームページやマスメディア、アウトリーチ活動を最大限に活用して広く社会に発信していく。
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Research Products
(7 results)