2019 Fiscal Year Annual Research Report
曲面π共役分子と金属の融合による機能性アシンメトリック空間の構築
Publicly Offered Research
Project Area | Coordination Asymmetry: Design of Asymmetric Coordination Sphere and Anisotropic Assembly for the Creation of Functional Molecules |
Project/Area Number |
19H04571
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
廣戸 聡 京都大学, 人間・環境学研究科, 准教授 (30547427)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | アザヘリセン / 金錯体 |
Outline of Annual Research Achievements |
2019年度は金属とヘリセンを結合するために、螺旋分子の配位子の作成を行った。その結果、我々が開発した螺旋分子、アザ[5]ヘリセンの選択的脱シリル化反応の開発に成功した。このアザ[5]ヘリセンは螺旋の内側および外側にシリル基をもつ。これに対し低温でTBAFと反応させると、螺旋の外側のみが反応し、水素に置換することを見出した。得られた生成物の構造はX線構造解析により同定した。理論計算により、反応中間体の安定性が、螺旋の外側に反応する方がより高いことを明らかにし、これが反応の選択性に影響していると同定した。得られた生成物はさらにクロスカップリングによって様々な置換基を導入できた。特に、電子求引基を導入することで、分子内に分極をもたせることに成功した。現在この手法を発展させることにより、より大きな分極をもつヘリセンの合成にも成功している。また、脱シリル化した化合物に対し、金属塩を反応させることによって、金属イオンが螺旋の外側に配位した錯体の合成に成功した。また、外側をキャップし、螺旋の内側に選択的に金属を導入した錯体の合成にも成功した。いずれの錯体もアザ[5]ヘリセン自体と比較して、吸収スペクトルが長波長シフトし、発光の消光が見られた。吸収スペクトルは内側に金を導入した錯体の方が長波長シフトしたことから、螺旋の内側に金属を配位させることで、螺旋分子と金属との相互作用が強く表れることが分かった。このように発光性ヘリセンと金イオンを組み合わせた化合物は他に例がなく、曲面分子と金属を組み合わせた新たな機能創出が期待できる重要な知見である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2019年度は当初の目的である、内側に金(I)イオンを配位したアザヘリセン錯体の合成に成功した。また、新たに配位子を変更した錯体の合成にも予備的に成功している。物性面では当初想定していた燐光発光は観測できなかったが、重原子効果による消光が見られたことから、金の配位による影響がアザヘリセン骨格に存在することを明らかにした。さらに、合成した金錯体が安定に取り扱い可能であることを見出し、アザヘリセン特有の安定化効果も予備的に見出している。2019年度当初予定していた目的である配位子交換については未達成であるが、以上の成果はアザヘリセンが様々な金属と組み合わせることができることを示す重要な知見であり、今後、さらに研究を進めていく上で重要な情報であると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度行った研究では我々の開発した螺旋分子が有用な金属配位子として働くことを明らかにした。さらに、金属との配位により光化学特性が大きく変化し、螺旋分子と金属との間で相互作用をもつことを明らかにした。今後、酸化還元特性をもつ金属や、重原子効果を示す金属を組み合わせることによって、光や電気化学特性を電気刺激で切り替えられるスイッチング素子や、室温でりん光を出す螺旋分子の創出が期待できる。また、螺旋の内側に金属を導入することに成功した。当初の目的どおり、金属同士の集積や配位子交換を検討することによって連結し、螺旋が伸長していくか確かめたい。一方、これらの合成過程で、大きな分極構造をもつ螺旋分子の合成にも成功した。このような分極をもつ螺旋分子は強誘電性や圧電効果を示すと期待されている。分極螺旋分子の合成経路を改善し、固体中での分子配向を制御することによって螺旋分子を用いた新たな分子材料の開発につなげたい。
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