2019 Fiscal Year Annual Research Report
マンガン4価サレン錯体の配位子場による不斉構造の制御とその分子機構の解明
Publicly Offered Research
Project Area | Coordination Asymmetry: Design of Asymmetric Coordination Sphere and Anisotropic Assembly for the Creation of Functional Molecules |
Project/Area Number |
19H04581
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Research Institution | Nara Women's University |
Principal Investigator |
藤井 浩 奈良女子大学, 自然科学系, 教授 (80228957)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 次亜塩素酸 / 不斉構造 / サレン錯体 / 反応中間体 |
Outline of Annual Research Achievements |
最も優れた不斉触媒の一つであるJacobsen触媒は、2,4位にt-ブチル基をもつサリチルアルデヒドとシクロへキシルジアミンから合成されたシッフ塩基錯体であり、金属イオンに配位するエチレンジアミン部位に不斉炭素を有している。Jacobsen触媒は非常に高い不斉収率を与えるため、不斉選択性の分子機構が古くより注目されて研究が行われている。Jacobsen配位子はほとんど平面的な構造をしていることが明らかとなり、どのようにして高い不斉選択性を獲得しているのかという問題は未解明のままである。我々は、この問題を解明するための鍵は反応中間体となる高原子価状態のJacobsen触媒にあると考え、マンガン3価Jacobsen触媒やコバルト2価Jacobsen触媒から高原子価状態の錯体の合成を試みた。その結果、高原子価状態では不斉構造に変化していることを見いだした。さらにマンガン4価Jacobsen触媒に酸化剤であるヨードソメシチレンが付加した錯体の合成と構造解析に初めて成功し、不斉構造に変化していることを見いだした。さらにこの知見を基盤に、軸配位子の配位力はマンガン錯体のどのような因子に影響を与えて構造変化を誘導しているのかという問題の解明をめざした。本年度、p-位のtBu基を塩素と臭素に置換したジクロロマンガン4価錯体の合成と構造解析を行った。tBu基をもつジクロロマンガン4価サレン錯体はほとんど平面構造をとるのに対して、塩素体、臭素体の構造は、配位子のフェニル環が上下に回転した不斉構造をとることが明らかとなった。この結果は、錯体の不斉構造変化は、軸配位子だけでなくサレン配位子の電子的効果によっても誘導できることを示した。マンガン周りの電子的影響のバランスが崩れることにより不斉構造変化が誘発されるという今後の作業仮説をえることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度に計画していた実験をほぼ進めることができた。得られた結果は、我々の提唱した不斉構造変化の機構を支持するものであった。またマンガン周りの電子的影響のバランスが崩れることにより不斉構造変化が誘発されるという今後の作業仮説をえることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
マンガン周りの電子的影響のバランスが崩れることによる不斉構造変化をさらに検証するため、サレン配位子に強い電子求引性基を導入する。さらに次亜塩素酸が配位した錯体の構造をEXAFSなどのX線分光法を用いて検討する。
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