2019 Fiscal Year Annual Research Report
Chemical redesign of biosynthetic system based on functional alteration of enzymes by synthetic molecules
Publicly Offered Research
Project Area | Creation of Complex Functional Molecules by Rational Redesign of Biosynthetic Machineries |
Project/Area Number |
19H04650
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
有安 真也 名古屋大学, 理学研究科, 助教 (50586998)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 親水性基質 / 親水性デコイ分子 / 網羅的活性評価 / 選択的水酸化 / エポキシ化 / 脱メチル化 |
Outline of Annual Research Achievements |
2019年度は申請時の計画通り、(i)基質認識型デコイ分子による親水性基質の化学変換を中心とし、(ii) 多段階酵素反応による複雑骨格機能分子の構築法の開発の足がかりとなる研究を遂行した。本研究課題「合成分子による酵素の機能改変に基づく化学的生合成リデザイン」で計画した酵素の機能改変を行うための合成分子(デコイ分子)の開発を行った。本計画が目指す複雑骨格機能分子を多段階の酵素反応で実現するためには、多くの官能基を有する親水性基質に対して、目的通りの化学変換を酵素で行うことが重要である。これまでに疎水性のデコイ分子を酸化酵素P450BM3に添加して、官能基の少ない疎水性基質の化学変換を制御することに成功しているが、この技術を親水性基質に適合させるために、末端に基質との相互作用が可能な官能基を持つ親水性デコイ分子の開発に着手した。20種類以上の新規デコイ分子を開発し、P450BM3による親水性基質水酸化反応の反応効率、選択性を網羅的に評価したところ、いくつかの親水性デコイ分子がフェノールなどの単純な構造を有する親水性基質の水酸化を異なる選択性で進行可能なことを明らかにした。また、P450BM3において、最もよく研究されている水酸化以外に、多段階の化学変換に有効だと予想されるエポキシ化や脱メチル化反応に関しても評価を行い、エポキシ化においては、野生型P450BM3を用いて、プロピレンから高選択的に目的のプロピレンオキシドに進行可能なデコイ分子をいくつか見出した。さらに多段階の酵素反応を実現するためには、デコイ分子の酵素選択性が不可欠であるが、網羅的活性評価によって、P450BM3変異体には全く活性を示さずに、野生型の酵素のみ活性化可能なデコイ分子を見出すことにも成功し、最終年度の多段階酵素反応の足がかりを得た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
基質認識型デコイ分子による親水性基質の化学変換に関しては、既報のデコイ分子とP450BM3の結晶構造を基にしたドッキングシュミレーションを参考に、新たに20種類近くの末端親水性デコイ分子の設計と合成を行った。オートサンプラ等を用いた効率的な酵素反応活性評価法を設計し、網羅的に、新規デコイ分子の水酸化活性誘導能と反応選択性の評価を行った。その結果、従来の疎水性デコイ分子では見られなかった基質とデコイ分子の相互作用に基づくと予想される反応活性、選択性の傾向が見られた。特に基質としてフェノールを用いた際には、P450BM3による水酸化生成物であるカテコールとハイドロキノンの生成比に顕著な変化が見られた。また、カルボニル基を有する基質に対しても、親水性デコイ分子による選択性の変化が観測された。また、多段階反応を指向した水酸化以外の化学変換に関しては、従来の疎水性デコイ分子を用いたP450BM3によるプロピレンのエポキシ化の検討を行い、99%以上の選択性で目的のプロピレンオキシドを得る反応条件を得ることに成功した。その他にも、メトキシ基を有する芳香族有機化合物を基質とし、P450BM3による脱メチル化を効率よく進行させるデコイ分子の探索にも成功し、本計画に必要なデコイ分子の開発は概ね順調に進行している。また、多段階酵素反応による複雑骨格機能分子の構築法の開発の足がかりとして、反応選択性の高いデコイ分子とP450BM3の変異体の組み合わせを網羅的に調査した結果、いくつかのP450BM3変異体に対し、全く応答しないデコイ分子を多数見出すことが出来た。多段階酵素反応を実現するためには他の酵素に干渉しないデコイ分子が不可欠であり、最終年度での本計画の実現の大きな足掛かりを得ることが出来た。
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Strategy for Future Research Activity |
2020年度は本計画の最終年度にあたり、申請計画である「合成分子による酵素の機能改変に基づく化学的生合成リデザイン」の実現を目指す。初年度の検討で本計画の中核を担う、親水性基質をP450BM3で化学変換可能とする親水性デコイ分子の開発が概ね完了し、申請時の計画通りに、(ii)多段階酵素反応による複雑骨格機能分子の構築法の開発を中心に、より実用に向けた(iii)菌体内反応への適用を目指す。 2019年度は野生型のP450BM3を中心に検討を行ったが、P450BM3は長鎖脂肪酸用の酵素であり、天然型の基質ポケットは比較的狭い。本申請の目的である複雑骨格構築には、基質ポケットがある程度広い方が有利である可能性が考えられるので、P450BM3の基質ポケット周辺を中心に新たに変異体を開発し、これまでに開発したデコイ分子との協同的な機能発現を目指す。さらに、2020年度は、酵素の適用範囲をP450ファミリーへの拡大も視野に検討を行う。これまでにP450BM3に近い、いくつかのファミリーでデコイ分子が適用可能であることが判明しているが、その知見は十分ではなく、初年度で行った網羅的な酵素活性評価法を用いて、本申請に有用な酵素の探索を行う計画である。 また、より実用性の高い菌体内反応への適用を目指し、デコイ分子に依存しない多種多様な酵素との多段階反応を試みる。この際、各反応同士が干渉しないように、基質、生成物、デコイ分子の条件を検討する必要がある。また、各反応の反応速度に偏りがないようにし、途中の過程での物質の蓄積等が発生しないように系の最適化を行う。最後に本申請の成果を結集し、最終的な目標である酵素を用いた複雑骨格機能分子の開発を実現する計画である。
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Research Products
(7 results)