2019 Fiscal Year Annual Research Report
メタノールをメチル基供与体としたS-アデノシルメチオニン再生技術の開発
Publicly Offered Research
Project Area | Creation of Complex Functional Molecules by Rational Redesign of Biosynthetic Machineries |
Project/Area Number |
19H04656
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
岡野 憲司 大阪大学, 生物工学国際交流センター, 助教 (40623335)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | S-アデノシルメチオニン / メタノール / メチルトランスフェラーゼ / メタノールデヒドロゲナーゼ |
Outline of Annual Research Achievements |
S-アデノシルメチオニン(SAM)はあらゆる生物に普遍的に存在し、DNAやタンパク質のメチル化に寄与するメチル基供与体である。また、植物や放線菌・糸状菌の二次代謝産物の生産におけるメチル化反応にも寄与し、複雑骨格機能分子の構造・機能の多様性創出に貢献している。しかしながら、申請者の知り得る限り、SAM依存性のメチラーゼ反応を利用した物質生産の工業化事例は無く、その原因はSAM再生の困難性にあると分析している。そこで本課題では大腸菌にメタノールをメチル基供与体としたSAM再生経路の導入を行うことで、メチル化反応の効率化を図った。 本年度はまずメチル化反応を実施するための組換え大腸菌調製のために最適な培地の検討を行った。SAMはメチオニンを前駆体として合成されるが、メチオニンの合成はメチオニン自身によって負に調節される。従って、メチオニン含有培地で大腸菌を培養すると細胞内のSAM合成が抑制され、メチル化反応が十分に進まない。そこで、無機塩培地にて大腸菌を培養することで、メチル化反応を促進することができた。また、同様の理由からメチオニン合成系のマスターレギュレータータンパク質の遺伝子を破壊することで、メチル化反応を促進することができた。こうして創製した微生物株にメタノールデヒドロゲナーゼを発現させることでSAM再生経路の導入を行った。その結果、メタノール濃度の上昇に伴い、メチル化反応の速度・収率が向上することが示された。さらにSAMの再生に関与する5つの大腸菌の内在性遺伝子を個別に強化した結果、メチレンTHFレダクターゼの過剰発現によりさらにSAM再生反応が強化できることが明らかとなった。 こうして作成したSAM再生強化株はあらゆるメチル化反応に利用できるため、様々なメチル化反応の促進への応用利用が期待できる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
大腸菌BL21(DE3)株にStreptomyces avermitilis由来のO-メチルトランスフェラーゼ5(SaOMT5)を過剰発現させ、様々な培地で菌体を調製した後、エスクレチンのスコポレチンおよびイソスコポレチンへのメチル化反応を行った。0.5 mMの基質より10 mg-wet cell/mLの菌体を用いてメチル化反応を行ったところ、LB培地を用いて菌体調製を行った場合、18 hで0.02 mMしかメチル化化合物は生産されなかった。一方で無機塩培地であるM9培地で菌体調製を行ったところ、0.17 mMのメチル化化合物が生産できた。M9培地に1 mMのメチオニンを添加して菌体調製を行った場合、生産量が0.1 mM程度まで減少したことから、メチオニンがSAM生産を負に制御している可能性が見いだされた。そこで、メチオニン合成系の制御タンパク質遺伝子であるmetJをゲノム編集により破壊した。得られたΔmetJ株を用いて、メチル化反応を行った結果、メチル化物の濃度は0.24 mMまで上昇し、メチオニンを添加して菌体調製を行った場合も0.20 mMのメチル化物を生産することができた。 続いて、本株にメタノールをメチル基供与体としたSAM再生経路を導入するために、Cupriavidus necator由来のメタノールデヒドロゲナーゼ(CnMDH2)を過剰発現した。その結果、メチル化化合物の濃度は0.35 mMまで上昇した。さらに、SAM再生系に関与する5つの大腸菌の内在性酵素遺伝子を個別に過剰発現した結果、metHを除く4つの遺伝子(metF、metK、mtn、luxS)について、メチル化化合物の濃度の上昇効果が確認された。特にmetFの過剰発現が有効であり、0.44 mMのメチル化化合物を生産することに成功した。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度の結果から、SAM再生系に関与する遺伝子群の過剰発現がメチル化反応の促進に重要であることがわかった。従って、次年度はこれらの遺伝子を個別に強化するのではなく、一斉に強化する系の構築を行う。バクテリアにおいて、複数の遺伝子を単一プロモーターの支配下でポリシストロニックに発現する場合、その発現量はプロモーターからの距離に比例して減少していく。従って、前年度最も効果が高かったmetF遺伝子を最上流に配置し、残る4つの遺伝子のいずれかを2番目に配置して、メチル化反応を実施する。最も効果の高かった遺伝子を2番目に配置する遺伝子として決定し、同様の手法によって3, 4, 5番目に配置すべき遺伝子を決定する。このような手法によって5つの遺伝子が最適な順序で配置されたSAM再生経路強化のための人工オペロンを作出する。 また、本年度の実験結果から、導入したSAM再生経路はメタノールの濃度の上昇にともなって、作用が強まることが明らかとなった。メチル化化合物の生産量はメタノール濃度が100 mMまでは上昇していき、それ以上の添加は効果が見られなかった。この結果は本研究で使用したメタノールデヒドロゲナーゼのKm値を反映した結果であると言え、酵素のメタノールへの親和性を高めることで、より低濃度でのメタノールで反応を進行させることができると考えられる。 その他の課題として、SAM再生経路の導入によりSAMの添加は回避できるものの、SAMの再生のためにATPを外部添加しなければならないという問題が挙げられる。従って、次年度はグルコース等の糖源を加えることで、ATPの再生を促進し、外部からのATP添加が不要なメチル化化合物生産系の確立を目指す。
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