2019 Fiscal Year Annual Research Report
強誘電性ペロブスカイト型酸窒化物および酸硫化物の誘電分極メカニズム
Publicly Offered Research
Project Area | Synthesis of Mixed Anion Compounds toward Novel Functionalities |
Project/Area Number |
19H04690
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Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
保科 拓也 東京工業大学, 物質理工学院, 准教授 (80509399)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 誘電特性 / 強誘電体 / エリプソメトリー / 計算科学 / 情報科学 |
Outline of Annual Research Achievements |
強誘電体の強誘電性や誘電分極のメカニズムは、カチオン-アニオン間の結合状態と深く関わっているので、結晶中のアニオンサイトを変化させれば誘電・強誘電特性が変化することは明らかである。しかしながら、複合アニオン誘電体の合成の難しさなどの原因により誘電特性に及ぼすアニオン置換効果はほとんど明らかになっていない。本研究では、ペロブスカイト型酸窒化物および酸硫化物の強誘電体関連物質を合成し、部分窒化あるいは部分硫化による誘電分極への影響をフォノンおよび電子状態の観点から定量的に明らかにすることを目的としている。 該当年度は、NbドープSrTiO3単結晶をアンモニア気流中で熱処理することでSr(Ti,Nb)(O,N)3単結晶を作製した。SrTiO3系では、アンモニア処理により特異的な欠陥構造ができ、それによって効率よく部分窒化が進行することが明らかになった。得られたSr(Ti,Nb)(O,N)3単結晶はノンドープのSrTiO3単結晶に比べて室温で誘電率が有意に高いことがわかった。また、テラヘルツ分光エリプソメータを用いてサブテラヘルツ~テラヘルツ領域の複素誘電率を実測することにより、ソフトモード周波数が部分窒化によって減少することが明らかになった。この結果は、SrTiO3系の誘電率の起源であるイオン分極が部分窒化により増加したことを示唆した。また、第一原理計算によってこの効果を再現することができた。また、BaTiO3系の酸窒化物の合成に挑戦し、これまでBa(Ti,Nb)(O,N)3、(Ba,La)Ti(O,N)3、(Ba,Bi)Ti(O,N)3の合成に成功している。特に、(Ba,Bi)Ti(O,N)3では強誘電性の増強が期待できると考えている。また、第一原理計算と機械学習を組み合わせ、強誘電性の決定因子を明らかにするとともに、強誘電性を増強させるための、置換元素の組み合わせについて検討している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
複合アニオン化合物であるSr(Ti,Nb)(O,N)3単結晶の合成手法を確立し、その誘電率が酸化物より有意に大きいことを初めて説明することができた。また、BaTiO3系の酸窒化物の合成に成功している。第一原理計算や機械学習を用いることにより、様々な置換元素の組み合わせについて検討することができてきている。本研究で目指している合成手法、測定技術、計算技術の向上という点でも進歩しており、研究計画は順調に進展していると判断される。
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Strategy for Future Research Activity |
SrTiO3系、BaTiO3系酸化物単結晶をアンモニア気流中で熱処理することで、酸窒化物単結晶得る。また、パルスレーザー堆積法あるいは化学溶液堆積法により作製した酸化物薄膜を部分窒化することよって酸窒化物薄膜を得る。窒化条件の制御などにより、窒素置換量が多く、酸素欠損量が少ないような酸窒化物の合成を試みる。また、ペロブスカイト型構造の酸硫化物の合成に挑戦する。得られる試料に関しては、X線光電子分光、電子線マイクロアナライザ、昇温脱離ガス分析法などを用いて、置換窒素量の測定を行う。また、抵抗率や誘電率測定を測定し、誘電特性について検討する。また、示差走査熱量測定や高温X線回折測定によりキュリー点を評価する。特に誘電特性や強誘電特性を測定することにより、窒素あるいは硫黄イオンの効果が誘電・強誘電特性に及ぼす影響を明らかにする。 また、アニオンの置換によってイオン分極がどのように変化するのか明らかにするために、テラヘルツ分光エリプソメータシステムを用いてTHz帯域の複素誘電率を測定する。特に、強誘電性の起源となるソフトモードに注目し、ソフトモードの周波数がアニオン置換によってどのように変化するのか明らかにする。また、イオン分極の変化を定量する。一方、アニオン置換によって強誘電性やイオン分極率が変化する理由について第一原理計算を援用することで理解する。特に、酸素を窒素や硫黄に置換することによって、アニオン-カチオン間の共有結合性が増加するのか、それによって最近接イオンに働く弾性的な反発力が低下するのかを計算的に検討する。 得られた結果をとりまとめ学会発表や論文発表を行うことで国内外に成果を発信する。
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Research Products
(9 results)