2019 Fiscal Year Annual Research Report
ローテク教材を使う講義「最先端のトピックス:ミックス・セラミックス」の開発と実践
Publicly Offered Research
Project Area | Synthesis of Mixed Anion Compounds toward Novel Functionalities |
Project/Area Number |
19H04709
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Research Institution | Osaka Sangyo University |
Principal Investigator |
堀越 亮 大阪産業大学, デザイン工学部, 准教授 (70408946)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 化学教育 / 教材模型 / 無機化学 / 錯イオン / ペロブスカイト構造 / 複合アニオン化合物 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題の目的は、高校生に無機化学の楽しさを伝えるための化学教材の開発とそれらを利用した高校出張講義を実践することである。 ピンポン玉とスナップボタンという入手しやすい材料を使って、高校生が親しみやすい無機化合物の構造模型の作製に成功した。この模型の特徴は、安価ゆえに教室にいる全ての生徒に配布することができること、そして、構成原子を取り外しやすいことにある。いずれも市販の(既存の)構造模型にはない特徴である。この模型を使えば、高校化学の教科書に登場するいくつかの錯イオンの構造を組み立てることができる。また、多くのピンポン玉をスナップボタンを介して連結していけば、ペロブスカイトや銅酸化物超伝導体といった無機酸化物の構造模型を組み立てることができる。そして、構成原子を簡単に取り外すことができるので、ペロブスカイト誘導体を舞台とするトポケミカル反応(集積構造を変化させず、構成原子を交換する化学反応)から合成される複合アニオン化合物(複数種の陰イオンをもつ化合物)を表現することもできる。 当初予定してた高校出張講義のうち、1件(私学共学校・奈良県)には赴くことができたが、3件(公立共学校・兵庫県、私学女子高・兵庫県、私学共学校・大阪府)は新型ウィルスの影響で、残念ながら中止となった。私学共学校・奈良県では、理系大学進学希望の高校2年生18名を対象に、上記の構造模型を使った出張講義(50分×1コマ)を実施した。参加生徒たちは物おじすることなく模型に触れ、錯イオンやペロブスカイト構造を楽しみながら作製してくれた。講義後のアンケート調査と講義1週間後の小テストの結果から、参加生徒たちは講義内容をよく理解していたことがわかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまでの研究活動により、ピンポン玉とスナップボタンから構成される、錯イオンや無機酸化物の構造を表現できる模型の作製に成功した。この模型は、金属イオンに見立てたピンポン玉にオスのスナップボタンを複数取り付け、配位子に見立てたピンポン玉にメスのスナップボタンを複数取り付け、それらをボタンを介して連結させることにより、いくつかの錯イオンや酸化物の構造を表現するものである。いくつかの構造体を組み立てることできる有用な模型を得たのだが、やや壊れやすいという弱点がある。具体的には、構成原子を取り外すときにピンポン玉からスナップボタンが外れてしまうことがある。現在、これを克服するためにいくつかの接着剤を試している。同時に、スナップボタンの穴を少し広げ、さらに外しやすく(壊れにくく)することも検討している。 多くの高校生に無機化学の楽しさを伝えるため、1件でも多くの科学イベントと出張講義に赴きたいと考えていた。2019年11月の奈良県での科学イベントにてブースを出展し、2020年2月中旬に私学共学校(奈良県)で出張講義を実施することができた。模型を使った講義は参加生徒や高校教員からの受けがよく、自信をつけていたところであった。しかしながら、2月後半からの新型ウィルス禍により、その後予定していた3件の高校出張講義を実施することができなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
引き続き、下記の2項目に注力していく。 ●安定な構造模型の作製 プラスチックと金属を効率よく接着できる接着剤をいくつか試すことにより、ピンポン玉からスナップボタンが外れやすいという問題を克服していく。例えば、透明プラスチックスナップボタンを紫外線硬化樹脂でピンポン玉に接着することなどを考えている。また、スナップボタンのサイズを換えたり、ボタンホールをやすりで成形したりして、壊れにくい模型を見出していく。 ●高校出張講義の開発と実践 ここで開発したピンポン玉―スナップボタン構造模型は、生徒たちが以下の内容を理解することを助けてくれる:錯イオン中の金属イオンの配位数と配位環境、錯イオンの異性体の構造、無機酸化物の集積構造や各金属イオンの配位環境。これまで高校出張講義では、平面四配位金属イオンと八面体六配位金属イオン模型を作製・利用してきた。これからは、表現の幅を広げるためにも、四面体型四配位金属イオンもピンポン玉で作製したいと考えている。上記のように、模型の表現レパートリーを増やすと同時に、講義の内容もブラッシュアップしていく。多くの高校生は、セラミックスという言葉と無機化合物がすぐにリンクしないようである。今後の講義ではこの部分を修正し、さらにわかりやすいものにしていきたい。高校の教科書では、有機化学と比較して体系的に学ぶことが難しい無機化学の分野を、高校生にとって魅力的なものにしていきたい。
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