2019 Fiscal Year Annual Research Report
葉緑体による新しい気孔制御メカニズム
Publicly Offered Research
Project Area | New Photosynthesis : Reoptimization of the solar energy conversion system |
Project/Area Number |
19H04731
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Research Institution | Kyoto Prefectural University |
Principal Investigator |
椎名 隆 京都府立大学, 生命環境科学研究科, 教授 (10206039)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 葉緑体 / 気孔 / ROS / レトログレードシグナル / NADPHオキシダーゼ |
Outline of Annual Research Achievements |
植物の葉の表面に存在する気孔は二酸化炭素の取り込み経路であり、その開閉は光合成に大きな影響を与える。そこで、光合成活性に合わせて気孔の開閉を最適化するメカニズムの存在が予想される。しかし、その実体は分かっていない。これまでの研究から、葉緑体チラコイド膜のCa2+結合タンパク質CASが、光依存的気孔開口や病原体感染を抑える気孔防御において、重要な役割を果たしていることを示してきた。CASは何らかの葉緑体シグナルを介して、細胞膜や細胞質ゾルで進行する気孔開閉システムを制御していると考えられる。本研究では、その分子機構の解明を目指した。 気孔は病原体の主要な感染ルートであり、植物は病原体特有の分子パターン(PAMP)を認識して気孔を閉じることで感染を防御している。この気孔防御では、PAMPによるSA合成誘導や、NADPHオキシダーゼRbohD依存のROS生成が重要な働きをすることが知られている。本年度の研究によって、CASがレトログレードシグナルを介したSA合成制御や、RbohD活性化を介して、感染に伴う気孔の持続的閉口の維持に関係することを明らかにした。レッドクス依存的にリン酸化されるCASが、光合成に依存した気孔開閉の制御に関与する可能性が示唆された。さらに、傷害ストレスによるRbohD活性のプライミングにCASが関与することも見出した。これらの結果から、傷害応答と感染防御応答のクロストークなど、葉緑体による気孔制御について新しい知見が得られた。 また、気孔防御関わるCa2+チャネル候補としてのCNGC5の解析や、気孔の光開口制御におけるミトコンドリアの役割などについて、新しい知見を得ることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
[CASによる気孔制御] 気孔は病原体の主要な感染経路であるが、気孔はflg22などのPAMPを認識して閉じ、植物を感染から守っている。一方、CASのノックアウト変異体やSA合成変異体では、flg22処理で一旦閉じた気孔が数十分で再開口することを見出した。この結果は、CASによるSA合成誘導が気孔閉口の持続性に関係することを示している。また、気孔防御には細胞膜のNADPHオキシダーゼRbohDが重要な働きをすることが知られている。本研究では、PAMPによるRbohD活性化がCASに強く依存していることも見出した。CASによる気孔防御制御には、レトログレードシグナルを介したSA合成制御転写因子の発現活性化とRbohD制御が関わることが示された。CASはレッドクス依存的にリン酸化されることから、光合成に依存した気孔開閉の制御にCASが関与する可能性も考えられる。 さらに、植物にあらかじめ傷害刺激を与えることで、免疫応答におけるRbohD活性化が強く誘導されることも見出している。この傷害によるRbohDのプライミング効果はCAS変異体では見られず、傷害と感染防御応答のクロストークにCASが関係する可能性も示された。 [CNGC5による気孔制御] 気孔防御の初期過程では、細胞質ゾルのCa2+濃度上昇が起こるが、それに関与するCa2+チャネルは見つかっていない。細胞膜のCa2+チャネル候補であるCNGC5変異体では、ABAやSAによる気孔閉口は正常であるが、flg22による気孔防御が特異的に起こらなくなることを見出した。CNGC5は気孔防御でのCa2+流入に関わるCa2+チャネルの可能性が示唆された。 [ミトコンドリアによる気孔制御] ミトコンドリア内膜に存在する機械受容チャネルMSL1が細胞膜陰イオンチャネルの活性制御を介して気孔の光開口を制御している可能性を見いだした。
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Strategy for Future Research Activity |
[CASによる気孔制御の分子機構] CASによる気孔開閉制御の分子機構について、次のテーマに焦点を当てて研究を進める。(1)CAS依存の葉緑体レトログレードシグナルの実体解明を目指す。トランスクリプトーム解析から同定したCAS依存の初期応答転写因子に注目し、その活性化に関わるシグナルの同定を目指す。(2) CASによるRbohD活性制御機構を解明する。RbohDの活性制御にはリン酸化が重要な働きをしていることが知られている。CASノックアウト変異体で、RbohDのリン酸化パターンが異な流ことを示す予備的データを得ている。その解析を詳細に進め、CASがRbohDリン酸化パターンを変化させることで、その活性制御を行っている可能性を検証する。また、RbohDリン酸化と傷害ストレスとの関係についても検討する。(3)CASは細胞質ゾルのCa2+濃度制御に関わることが示されている。気孔開口における孔辺細胞でのCa2+濃度制御にCASが関係している可能性を、細胞レベルでのCa2+濃度測定系を用いて検証する。(4)CASのリン酸化がレトログレードシグナルやRbohD制御に関係する可能性を検証し、葉緑体レドックスの変化が、CAS依存のシグナルを介して気孔制御に関与している可能性を検討する。 [CNGC5による気孔制御] CNGC5が実際に孔辺細胞のCa2+濃度制御に関わっている可能性を、検討する。 [ミトコンドリアによる気孔制御] MSL1が細胞膜の陰イオンチャネル制御をする分子機構を解析する。
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[Journal Article] Characterization of Bacterial and Fungal Communities in Soils under Different Farming Systems. The Cacao Plantation in Sulawesi Island―Indonesia2019
Author(s)
Suwastika, I. N.; Cruz, A. F.; Pakawaru, N. A.; Wijayanti, W.; Muslimin; Basri, Z.; Ishizaki, Y.; Tanaka, T.; Ono, N.; Kanaya, S.; Shiina, T
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Journal Title
Eurasian Soil Sc.
Volume: 52
Pages: 1234-1243
DOI
Peer Reviewed / Int'l Joint Research
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