2019 Fiscal Year Annual Research Report
プロトン駆動力制御に伴う光合成タンパク質構造動態変化の高速AFMによる解析
Publicly Offered Research
Project Area | New Photosynthesis : Reoptimization of the solar energy conversion system |
Project/Area Number |
19H04736
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Research Institution | Fukuoka University |
Principal Investigator |
山本 大輔 福岡大学, 理学部, 教授 (80377902)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 走査プローブ顕微鏡 / 蛋白質 / 生物物理 / 光合成 / ナノバイオ |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、(1)高速AFMシミュレーション画像生成プログラムの構築と高速AFMデータへの適用、(2)ホウレン草グラナ膜におけるPSII空間配置のpHによる変化の測定を行った。 (1)については、光合成タンパク質をAFMで測定したときに得られると予想される表面構造をシミュレーションするためのプログラムを作成した。本プログラムにより生成したタンパク質の表面構造とシミュレーション画像と高速AFMで観察された構造とを比較することにより、観察されたタンパク質がPSII、PSI、LHCIIあるいはcytb6fなど、ホウレン草グラナ膜やストロマラメラに内在するいずれのタンパク質であるのか容易に推定することができるようになった。さらに、シミュレーション画像を用いてAFM画像を解析するプログラムを新規に構築した。これにより、各タンパク質の中心座標を高い精度で得るとともに、グラナ膜内において高速AFMにより観察されたPSIIが何個のLHCIIと結合しているか、推定することができるようになった。 (2)については、領域内での共同研究のもと行っている。中性と酸性の各条件においてグラナ膜中におけるPSIIの空間配置の解析を行った。データ解析には上記のプログラムを用いることでPSIIの中心座標をnmの精度で得た。これまでに、pHに依存してPSIIの配置に変化が生じることが示唆されるデータが得られた。その結果から、pH変化によって惹起されると予想される膜内構造の変化を高速AFM測定により1分子レベルでとらえることができると示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
(1)高速AFMシミュレーション画像生成プログラムの構築と高速AFMデータへの適用については進展があったものの、(2)ホウレン草グラナ膜におけるPSII空間配置のpHによる変化の測定については進捗がやや遅れている。 (1)については、当初予定していた、pdb構造データからシミュレーションAFM画像を作成するプログラムを順調に構築することができた。さらに解析を容易にかつ精密に行うために、シミュレーション画像を用いて高速AFMデータを解析する手法を新規に開発した。本手法は、光合成タンパク質の複合体構造を推定するのに用いることができるのみならず、広く一般に、AFMで観察されたタンパク質構造を原子構造データと比較することを可能とすると考えられる。 (2)については、グラナ膜内におけるPSIIの位置をnm精度で解析することで、pHに依存してPSIIの空間配置に変化が生じることを示唆するデータを得ることができた。一方で、AFM観察試料の調製方法によって、最終的に得られる解析結果が異なる点があった。このことから、試料調製方法がグラナ膜の性質等に及ぼす影響を引き続き検討する必要があると考える。また、精製グラナ膜の質が一定しないなどの技術的な問題があった。このことから、実験および解析が当初予定よりも遅れている。 以上のことから総合的に判断して、現在までの進捗状況はやや遅れていると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
(1)ホウレン草グラナ膜におけるPSII空間配置のpHによる変化の測定について、引き続き研究を進める。まず、複数のメーカーの試薬を用いてグラナ膜標品を得、AFM測定により膜標品の質を評価する。次に、最も再現性の高いメーカーの試薬を用いて精製方法を最適化する。さらに、pHに依存したPSIIの空間配置の変化を高速AFM測定により解析する。解析は引き続き領域内での共同研究者と協力して行う。これまでの研究でグラナ膜の測定と解析についてのノウハウを蓄積しつつあるため、試料調製方法が最適化されれば、測定と解析は比較的容易に行えるものと考えている。 (2)グラナ膜におけるPSII-LHCII複合体構造の高速AFMによる直接観察について研究を行う。PSIIのみならず、グラナ膜内に存在するLHCIIも同時に1分子レベルで観察することができれば、膜内におけるエネルギー移動の様式について多くの情報が得られる可能性がある。PSII-LHCII複合体構造を1分子レベルで直接的に観察し、その複合体構造がpHによりどのように変化するのか明らかにする。その結果と、(1)で得られると予想される結果をもとに、PSIIの空間分布の変化とPSII-LHCII複合体構造との関係、あるいはその生理的な意義について考察する。
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