2019 Fiscal Year Annual Research Report
キンカチョウ歌学習を統合的に制御する生得的回路と獲得回路のスクラップ&ビルド
Publicly Offered Research
Project Area | Dynamic regulation of brain function by Scrap & Build system |
Project/Area Number |
19H04743
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
杉山 陽子 (矢崎陽子) 東京大学, ニューロインテリジェンス国際研究機構, 特任准教授 (00317512)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 可塑性 / 臨界期 / ソングバード / 学習 / 記憶 |
Outline of Annual Research Achievements |
歌を学習するトリ、ソングバードは生後の発達期には聴く親の歌を覚え、これを摸倣することで歌を学習する。この学習臨界期は(少なくとも)歌を聴いて覚える「感覚学習期」と「感覚運動学習期」の二つの時期から成るが、この感覚学習期では複数の歌を順番に聴くと、最初に聴いた歌を一時的に学習するものの、新しい歌を聴くと、歌を変化させ、新しい歌を学習し始める。この様な複数の聴覚経験の記憶はどの様に脳内に記憶されているのだろうか? 研究代表者の研究室ではこれまでの研究において、感覚学習期の歌学習に記憶は終脳の高次聴覚野に形成されることを明らかにしてきた。しかしこれまでの研究は複数の歌を記憶したトリでは行われておらず、複数の聴覚記憶がトリの脳内でどの様に記憶され、保存されているのか(もしくは新しい記憶により消去されてしまうのか)明らかになっていなかった。そこで本研究では二つの異なる歌を順番に聴き、異なる時期に異なる歌を覚え模倣したトリを用いて、異なる時期の記憶がどの様に形成され、互いにスクラップ&ビルドされるのか、異なる記憶の共存、競合の神経メカニズムを明らかにすることを目的とした。 昨年度の研究においては代表者の研究室で新たに作成したウィルスベクターを用い、異なる時期に形成された二つの異なる歌の記憶にそれぞれ対応すると思われる細胞群を、それぞれ可視化する方法を開発した。この手法により、異なる時期に獲得した聴覚経験の記憶は、高次聴覚野の異なる神経細胞群にコードされていること、さらにそれぞれの神経細胞群は歌学習制御する感覚運動野に投射していることを明らかにした。 トリの歌学習はヒトの言語発達のモデルともなると言われ、本研究は第二言語の獲得、特に幼少期に聴いた、言語の記憶がどの様に保存されているのか、再学習の可能性といった問題に新たな知見を与えるものと期待できる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2019年度の研究では、研究代表者の沖縄科学技術大学院大学における研究室で作成された、神経活動に依存して蛍光タンパクを発現させるウィルスベクターを用いることにより、二つの異なる歌刺激に対し、それぞれ反応する神経細胞群に異なる色の蛍光タンパクを発現させることに成功した。この方法を用いて異なる時期に獲得した聴覚経験の記憶は、高次聴覚野の異なる神経細胞群にコードされていること、さらにそれぞれの神経細胞群は歌学習制御する感覚運動野に投射していることが明らかになってきた。さらに、別の神経細胞の活動に依存して細胞死を引き起こすウィルスベクターを用い、記憶した歌を聴くことで、この歌に反応する神経細胞、つまりこの歌の記憶に関わると考えられる神経細胞を死滅させることで、新たな歌の記憶が形成されないと、古い歌の記憶はどうなるのか、また、高次聴覚野からそれぞれ感覚運動野に投射する神経細胞群はどの様に運動学習を制御しているのか、明らかにする研究を開始している。 以上のことから2019年度の研究は概ね順調に進んでいたが、年度末からのコロナウィルスの影響により、2ヵ月ほど研究室が閉鎖となった。2020年6月の現在、研究室は再開したものの、2か月以上に渡る研究の中断によるトリの特殊環境下における飼育、プロセス過程におけるサンプルの破棄、といった実験の影響は大きい。また、研究員の退職による新たな人材の確保も海外からの人の受け入れが困難なことにより影響が出ている。これらのことから2020年度の研究計画、進捗には多少の影響が出るものと思われる。
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Strategy for Future Research Activity |
2020度は、昨年度までの研究成果をさらに進展させる予定である。特に昨年度の終わりから実験を開始した、神経細胞の活動に依存して細胞死を引き起こすウィルスベクターを用いた、新たな記憶が形成されない場合における古い記憶を担う神経細胞群の投射経路の維持、古い歌の保持、と言った研究を続行する。これらの新たな実験とまとめて論文にまとめていく予定である。2020年度はコロナウィルスの影響により、年度のはじめより研究室が閉鎖しており、現在でも100%の再開は認められていない。このため、実験の遂行は当初の予定より遅れがちではあるが、昨年度のうちに予備実験が行われており、手法は確立されているので、計画的に実験を行うことで出来るだけ研究を遂行していく予定である。
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