2019 Fiscal Year Annual Research Report
同性愛行動を個体の経験依存的に生じさせるニューロンのスクラップ&ビルド
Publicly Offered Research
Project Area | Dynamic regulation of brain function by Scrap & Build system |
Project/Area Number |
19H04766
|
Research Institution | National Institute of Information and Communications Technology |
Principal Investigator |
佐藤 耕世 国立研究開発法人情報通信研究機構, 未来ICT研究所フロンティア創造総合研究室, 研究員 (40451611)
|
Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2021-03-31
|
Keywords | ショウジョウバエ / 同性愛行動 / サトリ変異体 / fruitless / 転写因子 / 電気生理学 / パッチクランプ / シングルセル解析 |
Outline of Annual Research Achievements |
キイロショウジョウバエの同性愛行動突然変異体サトリの雄成虫が示す同性愛行動は、翅化後の一定期間を他の雄と過ごす経験(集団飼育)によって増強され、一匹で過ごす経験(単独飼育)によって抑制される。本研究では、雄の求愛行動の意思決定中枢とされるP1ニューロンを手がかりに、翅化後の経験によってサトリ変異体の脳に生じる変化を神経生理学及び分子生物学的な手法によって解析した。このニューロンの電気的な性質が、雄同士の集団飼育の前後、あるいは集団飼育と単独飼育との間でどのように変化するかを、生きたサトリ変異体の脳において、in vivoホールセルPatch-clampシステムを用いて調べた。膜電位固定下において、ニューロンの細胞膜(非シナプス膜)を流れるイオン電流を記録したところ、雄同士で集団飼育したサトリ変異体のP1ニューロンにおいて、膜電位に依存して流れる外向き電流が有意に減少することが示唆された。この電流を成分分析し、この変化に寄与しうるイオンチャネルについて推測、当該イオンチャネルの発現レベルが雄との集団飼育によって減少する可能性を検討した。また、イオンチャネルの発現レベルを低下させる、上流の転写制御メカニズムを明らかにするため、細胞特異的でしかも網羅的なmRNA発現解析システム(TRAP、Translating ribosome affinity purification)を構築した。これによって、長い神経突起を持つために、脳から単一細胞にまでダメージなく解離することが困難なニューロンでも、シングルセルレベルの高い解像度でしかも網羅的に遺伝子発現を解析できるようになる。今後、このシステムを用いて、集団飼育依存的に発現レベルが変化する遺伝子を特定してゆく。これによって、社会経験依存的な行動の発現機構を、分子ー神経ー個体をつなげて階層縦断的に解明する。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
翅化後の社会経験の作用点となる脳細胞がP1ニューロンであることが分かってきたため。P1ニューロンに起こる電気的な性質の解析を手がかりとして、経験によって脳に生じる可塑的な変化を分子及び神経細胞レベルで解明し、その変化を人為的に再現あるいは改変することによって、個体の経験を代替、軽減・増強するニューロン操作技術を作出する研究へとつながることが期待されるため。
|
Strategy for Future Research Activity |
集団飼育によってP1ニューロンの興奮性を上昇させるイオンチャネルを特定するため、in vivoホールセルPatch-clamp後のガラス電極に残存する細胞質からmRNAを回収し、関与が推察されるイオンチャネルの転写産物量(mRNA量)をシングルセルqPCR法によって定量する。また、当該イオンチャネルの機能阻害をP1ニューロン特異的なGAL4ドライバーを用いて行い、それによってサトリ変異体が示す同性愛行動の活性がどのように影響を受けるかについて検討する。当該イオンチャネルの発現量を集団飼育によって変化させる転写制御メカニズムを明らかにするため、構築したTRAPシステムを用いることによって、集団飼育に依存してP1に生じる遺伝子発現の変化をシングルセルあるいはシングル神経クラスター・レベルの解像度で明らかにする。自分の周囲にいる雄に由来するどのようなシグナルがP1ニューロンの興奮性の上昇を引き起こすか、についても具体的に明らかにするため、フェロモンなどの刺激やそれに伴う回路とP1ニューロンとの関係をより積極的に検討する。上記を解明する過程で、本来雌に向けられるはずの性行動が雄に向けて起こるという、行動選択(性指向性)それ自体が集団飼育に依存して変化するのか、それとも、性指向性それ自体は飼育経験の影響を受けず、性行動の発現頻度や活性のみが変化するのかという本研究の問いについて解明できるものと見込んでいる。
|