2019 Fiscal Year Annual Research Report
蜜腺の形成と消失機構
Publicly Offered Research
Project Area | Determining the principles of the birth of new plant species: molecular elucidation of the lock-and-key systems in sexual reproduction |
Project/Area Number |
19H04865
|
Research Institution | Nara Institute of Science and Technology |
Principal Investigator |
伊藤 寿朗 奈良先端科学技術大学院大学, 先端科学技術研究科, 教授 (90517096)
|
Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2021-03-31
|
Keywords | 遺伝子発現 / 蜜腺 / 生殖 / オーキシン |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、モデル植物シロイヌナズナをもちいて、いまだ解明の進んでいない蜜腺形成と消失の遺伝子ネットワーク機構を解明することである。まず、蜜腺の形成にとって必須の遺伝子であるCRABS CLAW (CRC)転写因子を発現するタグ付きの形質転換植物を作成するため、crc変異体にgCRC-GFPが導入された植物で蜜腺欠損の表現型が回復しているかを確認した。蜜腺が発達する領域で CRC-GFP融合タンパク質の蛍光が観察され、野生型と同様に蜜腺が発達した。この結果から、CRC-GFPは蜜腺で正常に機能すると考えられた。さらに、CRC-GFPは蜜腺の発達後期まで発現を継続したことから、CRCは蜜腺原基の形成を促進するだけでなく、蜜腺の分化や蜜の分泌も制御している可能性が示唆された。さらに、蜜腺形成に作用するリアリゼーター遺伝子を同定するために、野生型の発生段階に沿った蜜腺領域と蜜腺の形成されないcrc突然変異体とで、発現プロファイリングを行った。並行して、CRC転写因子のChIP-seq解析を行うことにより、CRCの直接のターゲット遺伝子の同定を行った。これにより蜜腺形成のリアリゼーター(realizator具現化)遺伝子の候補を複数得た。その中には、蜜腺の分化を制御する転写因子をコードするMYB DOMAIN PROTEIN 57遺伝子や、蜜の分泌に必要なスクロース輸送体をコードするSWEET 9遺伝子、オーキシン輸送タンパク質PIN-FORMED1タンパク質の安定性に関わるMACCI-BOU4(MAB4)遺伝子が見られた。さらにmab1変異体における蜜腺を観察したところ、野生型よりも有意に大きさが小さくなっていた。現在、MAB1遺伝子のCRCによる発現制御機構、およびその下流の制御機構の解析を進めている。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
すでに、crc変異体バックグラウンドでgCRC-GFP相補体を得ており、蜜腺形成における発現を確認している。また、野生型とcrc変異体を用いたRNA-seqより、有意に発現が変化する遺伝子を同定している。さらにgCRC-GFP crcラインを用いてChIP-seqを行うことにより、CRCの直接のターゲット遺伝子を同定している。その中でオーキシンの制御に関わるMAB1遺伝子に着目して、その変異体において蜜腺における表現型を同定している。蜜腺形成の鍵遺伝子の同定として、論文作成が行える段階に近い。
|
Strategy for Future Research Activity |
以下の項目に沿って、蜜腺としてのアイデンティティである球状形態の構築、蜜の輸送、生成、分泌などをつかさどるリアリゼーター(realizator具現化)遺伝子のうち、MAB4遺伝子に着目して、その制御機構を探る。1) CRCによるMAB4遺伝子の発現制御機構の解明のため、CRCのもつZinc fingerドメインおよびhelix-loop-helixドメインの欠損株を作成して、結合性および相補能を探る。2) MAB4遺伝子の蜜腺発達におけるプロモーター解析を行う。3) MAB4の作用機構の解明のために、オーキシンレポーターや輸送体PIN6レポーターの発現を野生型およびmab4変異体において比較解析する。 さらに、蜜腺の崩壊過程における解析も進める。4) 開花後の野生型の花を用いて、時間軸に沿った蜜腺の表現型解析、核の崩壊、クロマチンの凝縮、ミトコンドリア膜の分解、液胞の崩壊および蛍光顕微鏡をもちいた DNAの断片化を可視化することで、シロイヌナズナにおける蜜腺のプログラム細胞死を時間軸にそって記述する。5) 上記解析において、時間軸に沿ったCRCレポーター遺伝子、ショ糖のバイオセンサー、ショ糖トランスポーターレポーター、および細胞死マーカー遺伝子(DNA分解酵素BFN1, プロテアーゼCEP1, それら上流の転写因子であるKIRA1, ORE1)を活用することで、受精後の蜜腺の消失過程における分子マーカーの発現と生殖のイベントをリンクさせる。6) 開花から蜜腺の崩壊までの時間軸に沿ったRNA-seqおよび、メタボローム解析を行うことにより、プログラム細胞死にいたる鍵となるシグナルの同定とその下流のシグナル伝達経路の解明をめざす。
|