2019 Fiscal Year Annual Research Report
思春期の社会的経験を通してコミュニケーション能力が成熟する神経機構
Publicly Offered Research
Project Area | Science of personalized value development through adolescence: integration of brain, real-world, and life-course approaches |
Project/Area Number |
19H04874
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
田中 雅史 東北大学, 生命科学研究科, 助教 (20835128)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | キンカチョウ / 中脳水道周囲灰白質 / ドーパミン / 思春期 / コミュニケーション / 歌鳥 / 鳴禽 / ソングバード |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、長く言語学習や音声コミュニケーションを調べる動物モデルとして用いられてきたキンカチョウというスズメ亜目の鳥(songbird, 歌鳥)を用いることで、思春期の社会的経験がその後のコミュニケーションや神経回路に与える影響を効率良く明らかにすることを目指した。思春期の開始頃(20~60日齢)に親から隔離され、社会的に孤立して育てられたキンカチョウを、正常に育てられたキンカチョウと比較した結果、キンカチョウの歌は、思春期には極めて不安定だが、次第に音程や発声の長さなどを安定化させていくことがわかった。また、本研究で新たに開発した短時間フーリエ解析を利用した手法をもとにキンカチョウの歌のリズム解析を行ったところ、正常なキンカチョウは、発達とともに安定した音程やリズムを獲得する一方、思春期に社会的隔離を経験したキンカチョウの歌は、音程・リズムの安定化が未熟であることが明らかになった。また、この不安定なリズムの歌が社会的コミュニケーションにおいて担う機能を調べるため、不安定なリズムの歌が流れるボタンをケージに設置し、正常に育ったキンカチョウの反応を記録したところ、押す頻度が少なく、発声を用いた反応も少ない傾向が見られており、安定したリズムがコミュニケーションにおいて重要な役割を果たす可能性が示唆された。思春期に社会的隔離を経験したキンカチョウでは、中脳水道周囲灰白質(periaqueductal gray: PAG)における神経活動が低下しており、他個体の発声に対する反応のばらつきが大きいことも明らかになりつつある。幼少期に社会的に隔離されたキンカチョウは、他個体に対する物理的距離のばらつきが大きく、ときに異常な攻撃行動や、他個体から距離を保って休息を取る社会的忌避の行動も観察された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究により、ヒトと同様、キンカチョウにおいても、思春期の社会的相互作用がその後の社会的コミュニケーションへ悪影響を及ぼすことが明らかになり、音声コミュニケーションの発達と障害を調べる新しいモデル動物としてのキンカチョウの有用性を明らかにできた。特に、思春期に社会的隔離を受けたキンカチョウにおいて活動低下を示したPAGのうちドーパミン作動性神経細胞は、幼少期の社会的コミュニケーションによって活動し、皮質の運動野HVCへドーパミンを放出し、HVC内の信号伝達を変化させることによって、正常な歌の模倣学習をもたらすことも明らかになっている(Tanaka et al., 2018)。今後のさらなる研究により、PAGとその下流であるHVCの神経活動が、異常な発話や社会的コミュニケーションをもたらすメカニズムを明らかにできると期待できる。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究により、思春期の社会的相互作用がキンカチョウの歌の音程・リズムの安定性に重要な影響を及ぼすことや、正常な社会的コミュニケーションの成熟への貢献が明らかになりつつある。今後の研究では、鳥の歌と社会的コミュニケーションの解析ソフトウェアの開発を進め、さらなる社会的コミュニケーションの定量化を進める。また、本研究で明らかになりつつあるPAGやHVCなど歌の成熟や社会性の調節にかかわる神経回路を標的とした神経活動の記録・操作によって、思春期の社会的相互作用によって影響を受ける神経回路や、社会的コミュニケーションの成熟の促進を可能とする神経メカニズムの解明を目指す。
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Research Products
(2 results)