2019 Fiscal Year Annual Research Report
新規神経ペプチド受容体NPBWR1の機能が情動表出の個体差に与える影響
Publicly Offered Research
Project Area | Integrative research toward elucidation of generative brain systems for individuality |
Project/Area Number |
19H04894
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
征矢 晋吾 筑波大学, 国際統合睡眠医科学研究機構, 助教 (90791442)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | Npbwr1 / 情動 / 個体間距離 |
Outline of Annual Research Achievements |
他者とコミュニケーションを取る上で個体間の距離を縮めていくことは社会性を構築する上で必須である。しかし、社会行動に関わる神経メカニズムについてはこれまでに報告されているが、社会行動に至るまでの個体間距離の調節機序についてはは全く明らかになっていない。本研究では、新規のニューロペプチドであるNPB/NPWの受容体であるNpbwr1に焦点を当て、情動応答や社会行動への関与が示唆されるNpbwr1を豊富に発現する扁桃体中心核(CeA)のニューロンを解析することでNpbwr1が個体間距離の制御に果たす役割について検討することを目的としている。 当該年度では主にNpbwr1が発現するニューロン(Npbwr1ニューロン)にCre組み換え酵素が特異的に発現するNpbwr1-iCreマウスを用いて、Cre依存的にシナプトフィジンを発現するアデノ随伴ウイルス(AAV)や狂犬病ウイルス(SADΔG)等を用いて、Npbwr1ニューロンの投射領域およびNpbwr1ニューロンに入力するニューロン群の解析を行った。その結果、CeAのNpbwr1ニューロンはCA1, VTAを含む様々な領域から直接入力を受けていることが明らかになった。同定した出力先の中でも主に脳幹の外側部に顕著な投射線維が観察された。 さらに、当該年度では薬理遺伝学および光遺伝学を用いることで、CeAのNpbwr1ニューロンが社会行動を調節することが明らかになり、CeAから脳幹の外側部へのNpbwr1ニューロンの投射がその神経メカニズムの一つであることが示唆された。 これらの研究結果からCeAのNpbwr1ニューロンは下流の脳幹外側部を抑制することで社会行動の調節に関与していることが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
今年度は、入出力機構に関わる実験結果を示すことができたことでCeAのNpbwr1ニューロンを軸とした神経ネットワークの全貌を明らかにすることに成功している。これはNpbwr1ニューロンが社会行動および個体間距離の調節時にどのような領域から入力を受け、どの領域を制御しているのか検討する上での有益な情報となる。さらに、AAVを用いた薬理遺伝学、および光遺伝学を用いた実験からCeAのNpbwr1ニューロンが社会行動を調節することを明らかにできつつある。これまでに興奮性の人口受容体であるhM3Dqおよび抑制性のhM4DiをCeAのNpbwr1ニューロンに発現させ、CNO投与により興奮および抑制を行ったところ、新規の個体に対する社会行動および個体間距離に変化が見られた。また、光感受性タンパク質であるChR2をNpbwr1ニューロンに発現させ、同定した投射先において軸索末端を光照射により活性化させた結果、新規個体に対する社会行動が増強された。また、免疫組織科学染色により、CeAに発現するNpbwr1ニューロンは9割以上がGABAニューロンであり、これまでに報告されている様々な遺伝子(PKCd等)を共発現することを明らかにした。このことから、CeAのNpbwr1ニューロンは下流である脳幹の外側部を抑制することによって個体間距離の調節および社会行動に関与している可能性が強く示唆された。次年度には、この実験結果を元にヒトのNpbwr1で確認されているSNP(一塩基多型)が社会行動および情動応答に与える影響を検討する実験を計画しており、今後研究が大きく進展することが考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
ヒトのNpbwr1で確認されているSNP(一塩基多型)を個体差と捉え、二年次はAAVを用いてNpbwr1のSNPが社会行動および情動応答に与える影響をマウスモデルで検証する実験を計画している。具体的にはNpbwr1-iCreのCeAに通常のヒトNpbwr1遺伝子または変異型ヒトNpbwr1遺伝子をAAVを用いて発現させ、社会行動および情動応答の変化を観察する。既にそれぞれのAAVの作成に成功しており、GAD67-Creマウスに投与することでその発現レベルについても検証済みである。 また、社会行動および個体間距離の調節時にCeAのNpbwr1ニューロンをリアルタイムで観察するため、当該年度で導入したファイバーフォトメトリーを用いてGCaMPを用いて自由行動下でのカルシウムイメージングを行う。個体間距離および社会行動を評価するため、撮影したビデオから個体間距離および接触回数を算出するプログラムを用いる。これらを同時に使用することで、個体間距や社会行動の調節時におけるCeAのNpbwr1ニューロンの活動を詳細にモニターすることが可能である。また、Npbwr1KOが社会行動時に過剰な自律神経応答を示すことに着目し、テレメトリーデバイスを用いた心拍測定を同時に行う予定である。 これらの実験によりNpbwr1の変異が社会行動および情動応答の個体差に与える影響を検討するとともに、CeAのNpbwr1ニューロンが、社会行動、特に個体間距離の調節する生体メカニズムを検証する。
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Research Products
(2 results)