2019 Fiscal Year Annual Research Report
Individual differences in the relationship between memory and stress responses
Publicly Offered Research
Project Area | Integrative research toward elucidation of generative brain systems for individuality |
Project/Area Number |
19H04897
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
佐々木 拓哉 東京大学, 大学院薬学系研究科(薬学部), 助教 (70741031)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 中枢末梢連環 / ストレス / 局所場電位 / 心電図 / 大脳皮質 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、ストレス応答の個体差が発現するような実験条件を活用して、大脳皮質の神経活動と動物行動の変化の関連を研究した。具体的には、マウスに他個体から短期間攻撃されるような社会的敗北ストレスを負荷し、その前後の腹側海馬の神経発火パターンおよび集合同期活動の変化を解析した。腹側海馬は、脳表面から深部に存在するため、テトロード電極またはシリコンプローブ電極の埋め込み方法を工夫し、数週間かけて標的領域に到達させ、慎重に計測を行った。その結果、ストレス負荷後に数時間、すくみ行動などの不安様行動が増加した動物個体において、腹側海馬における神経活動に変化が見られた。特に、ストレス負荷中、すなわちストレス記憶の獲得中に活動した海馬神経細胞は、その後も継続して活動していることが明らかになった。これは、ストレス記憶に対応した神経活動が、その後に神経回路に固定される過程を示しているものと考えられる。また、海馬の集合同期発火を反映したシャープウェーブリップルの発生頻度を解析したところ、ストレス負荷前と比較して、ストレス負荷後には増加傾向が見られた。さらに、このようなシャープウェーブリップル中には、先述したストレス記憶獲得時に活動した神経細胞が繰り返し活性化されていた。このことは、腹側海馬における記憶固定の神経活動が全体の集合活動と同期して発生しやすいことを示唆している。こうした神経活動を選択的に操作するために、特定の同期発火活動を即時的に検出し、瞬時に腹側海馬に刺激を与えて、その活動のみを抑制するようなオンライン操作実験システムを確立した。この実験系を用いて、今後は計測された神経活動の因果関係を検討する予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究計画では、ストレス刺激を負荷された動物個体において、行動の個体差を確認し、同個体において選択的に生じるような神経活動を見出すことであった。そのような目的は、おおむね達成されたと考えている。本知見をもとに、ストレス応答の個体差に関する論文を3報発表することができた(Kuga et al., J Physiol, 2019; Abe et al., Sci Rep, 2019; Nakayama et al., Sci Rep, 2019; すべて論文責任著者)。また、オンラインフィードバック刺激法を確立し、見出された神経活動の操作技術を確立したことは、当初の想定にはなかったものであり、期待以上の成果であったといえる。もう1つの研究計画として、マイクロダイアリシス法を用いて脳脊髄液を回収し、その中のドパミンやセロトニンなどの神経調節分子の濃度を定量することを検討していた。こちらは、可能な限り電気生理計測と組み合わせて行いたいため、現在、適切な電極埋め込み法を検討している。来年度には実験システムが完成し、実践可能になる見込みである。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでに確立したオンラインフィードバック刺激法を用いて、ストレス経験に対応した腹側海馬の集団同期発火を選択的に消失させ、その効果を検討する。すなわち、記憶固定に重要と考えられる神経活動を選択的に阻害する。ここでは、海馬交連線維に電極を置いて電気刺激するか、あるいは腹側海馬そのものに光感受性分子のチャネルロドプシン2を発現させて光刺激することを検討している。これらの実験操作の効果を評価するために、他個体とどれだけ社会的相互作用するかを行動指標とする。また、このような集団同期発火は、動物が静止あるいは睡眠中に特に生じやすいため、逆に、強制的に運動などをさせて、同期発火を減少させた場合にも、オンラインフィードバック刺激と同様の効果が見られるか検証する。これは、一種の気晴らし効果を模倣できるものと想定している。さらに、ドパミンやセロトニンなどの神経調節分子の濃度変化を検討する。想定される結果としては、ストレス応答を強く示した個体ほど、こうした分子の濃度変化が大きく生じるのではないかと考えられる。最後に、こうした調節分子の起始核である腹側被蓋野あるいは青斑核などの活動を光操作し、同様の行動やストレス応答を模倣できるか検討する。こうした実験結果を総合して、神経調節分子の脳内動態の個体差が、ストレス応答の個体差の要因となるか、因果関係を議論する。 もう1つの実験として、迷走神経刺激の効果を検討する。迷走神経刺激は、神経調節分子の濃度を変動させることが知られており、ストレス応答による精神症状の個体差を軽減できる可能性がある。既に、迷走神経そのものを電気刺激あるいは光刺激できる実験系を確立しており、これらを本ストレスモデルに適用して、改善効果の個体差を記述することを目指す。
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Research Products
(6 results)