2019 Fiscal Year Annual Research Report
アリの行動変異をもたらす社会的・遺伝的メカニズムと個体差の適応的意義
Publicly Offered Research
Project Area | Integrative research toward elucidation of generative brain systems for individuality |
Project/Area Number |
19H04913
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Research Institution | Tokyo Metropolitan University |
Principal Investigator |
岡田 泰和 首都大学東京, 理学研究科, 准教授 (10638597)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | カースト分化 / 個体差 / 個性 / 表現型可塑性 / 社会的相互作用 |
Outline of Annual Research Achievements |
動物で「個性」が創出されていく発達過程では,親子や性・社会的な相互作用が極めて重要な役割を果たす.脊椎動物だけでなくアリなどの社会性昆虫でも,親からの保護や子育て,エサ集め,繁殖順位をめぐる争いなど,様々な社会的相互作用が行動の発達に影響を与えると考えられている.私たちは,トゲオオハリアリを主なモデルとして,行動変異を作出する分子メカニズムおよび社会的要因の研究を行っている. トゲオオハリアリ(Diacamma sp.)では,コロニーを構成する100匹ほどのメスは大きさも形も同じであるが,巣内の順位によって女王とワーカーが明瞭に分化する.加えて,ワーカーの行動パターンは,巣内のワーカー数(労働力)や巣内環境などによって可塑的に変化し,固定化していく可能性がある.本種のカースト分化は,順位や社会環境によって行動が異なる発達を遂げるプロセスであり,個性の発達を研究する上で,有用なモデルになると考えているが,変異を生み出す環境要因や社会的経験はよくわかっていない. 私たちは,アリのコロニー内での行動変異および,個体同士の社会的相互作用の詳細を調べる上で,質の高い行動データを得るため,本種の背中にバーコードタグを貼付け,行動を自動追跡(トラッキング)する技術を開発してきた.これまでにタグの素材や撮影機器の条件検討をすすめ,歩行活動や活動性,個体間の相互作用を自動追跡できるようになった.発表では,行動変異と社会的相互作用の大規模データを用いた,社会全体の観察や,社会環境の操作実験の概要を述べたい.また,行動変異の分子基盤解明に向けて,神経化学物質や脳内の遺伝子発現パターンを調べており,さらに精緻な遺伝子発現解析のため,本種のゲノム解読を進めている.今後,これらの技術を組み合わせ,環境と遺伝子発現のパターンで行動の差異がどこまで説明できるのかを検討していく.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
バーコードによるトラッキング技術や目視観察によって、ワーカーの個体差や行動生理的差異を特定し、個体差や社会的相互作用が行動に及ぼす影響についての論文発表を継続できている。トゲオオハリアリについてはドラフトゲノムが得られ、精緻な発現解析についての手法の向上を進める段階である。トラッキング技術とトランスクリプトーム解析を連携させた研究までもう一息のところまで来ており、研究は順調に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
トラッキングや目視観察による行動の際のデータと、脳や体の各組織の遺伝子発現のバリエーションを紐つけていく。具体的には、トラッキング解析したコロニー全体をトランスクリプトーム解析に供し、行動変異と遺伝子発現変異のクラスタリング(類似パターンを把握する)解析から、行動変異の分子基盤を特定する。また、個体間の相互作用(他個体との接触頻度など)と行動変異や発現プロファイル変異の解析も行う予定である。
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Research Products
(10 results)