2019 Fiscal Year Annual Research Report
求愛中のショウジョウバエを用いた追跡ナビゲーションを制御する神経機構の解明
Publicly Offered Research
Project Area | Systems Science of Bio-navigation |
Project/Area Number |
19H04933
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
上川内 あづさ 名古屋大学, 理学研究科, 教授 (00525264)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 追跡行動計測 / 行動要素 |
Outline of Annual Research Achievements |
ナビゲーション中の動物は、さまざまな情報を手掛かりにして移動方向を調整し、ターゲットに到達する。その間、脳はどのようにして、多様な感覚情報を統合して移動戦略を決定し、ナビゲーション行動を制御するのだろうか? 本研究では、ショウジョウバエのオスが複数の感覚情報を手掛かりに求愛相手に向かう追跡行動をナビゲーション行動のモデルとして、この謎に挑むことを目的とした。
当該年度では、異なるモダリティの感覚情報がそれぞれどの行動要素を誘発するか、感覚刺激の組み合わせによってどのような行動が誘発されるか、の解析を進めた。本研究のために開発した、単一オス個体の求愛追跡行動を定量できる、球状トレッドミルを用いた行動計測系を用いて、視覚刺激(前方で左右に動く、求愛行動対象のメス)に加えて、求愛歌やフェロモンを組み合わせて与えた際の、オスの追跡行動を計測した。ついで、得られた行動データを、機械学習を用いた時系列データ分析法などで解析し、それぞれの感覚刺激に応じた追跡行動が、どのような特徴量を持つ行動要素の組み合わせで生じるかを決定した。求愛歌やフェロモンのどちらかだけを組み合わせた場合と両方を与えた場合での、行動要素の差を解析することで、異なる感覚刺激の組み合わせと、それにより誘発される行動要素との相関関係を調査した。
さらに、求愛追跡行動を担う司令中枢ニューロンの作用機序の手がかりを得るため、司令中枢ニューロンを光遺伝学を用いて活性化した際の、求愛追跡行動を解析した。これにより、この司令中枢ニューロンの活性化操作により誘発される行動要素を絞り込んだ。さらに、より自然な状態下での求愛追跡行動を調べるため、自由行動が可能な複数のオスとメスを入れた観察用の容器を用いて、個体ごとの移動トラッキングおよび行動様式のアノテーションを行なった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当該年度は、異なるモダリティの感覚刺激を与えた際のオスの追跡行動が、どのような特徴量を持つ行動要素のどのような組み合わせで生じるか、の解明を進めた。まず、これまでの予備実験で示唆された、感覚刺激の組み合わせごとに生じる求愛追跡行動を定量的に評価する方法を確立した。その結果、与えた求愛歌やフェロモンの組み合わせにより、追跡行動の進行方向や速度が変化することがわかった。これは、受けた感覚情報に応じて、ショウジョウバエのオスは追跡行動の戦略を変化させることを示唆している。さらに、他の行動パラメータについても、感覚情報依存的に異なる特徴があるかを調べるため、深層学習の手法を用いて行動パラメータを網羅的に解析した。これにより、刺激の有無に対して最も大きな差が生じる特徴の特定に成功した。
光遺伝学を用いた司令中枢ニューロンの活性化では、光量依存の行動変化が見られた。最も行動変化が大きかった光条件で誘発された行動を要素分解したところ、特定方向への移動が顕著に見られることがわかった。
自由行動下でのオスとメスの行動観察の結果、オスバエの求愛行動を計測できた。まず、行動アノテーションにより、求愛行動を形成する追跡行動、定位行動、タッピング行動、求愛歌を発する行動を標識した。さらに、他のオスが求愛歌を発している際に、その求愛歌が聞こえる範囲にハエが存在するかどうかを判定する評価基準を定めた。その基準を基にしてハエが存在するかどうかを判定し、存在した場合はそのハエを「hearing状態」と定義した。さらに、求愛行動の各要素に関して「hearing状態」との関連性を解析した。その結果、いくつかの行動要素について、「hearing状態」とのグレンジャー因果性が認められた。このことは、「hearing状態」が、特定の求愛行動の要素を誘発している可能性を示している。
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Strategy for Future Research Activity |
球状トレッドミルを用いた行動計測系により得られたオスの求愛追跡行動データを用いて、新たにパターンマイニングの手法により、感覚刺激の組み合わせごとに生じる求愛追跡行動の特徴をパターンとして抽出する。抽出された特徴的な行動パターンが、自由行動下の求愛追跡行動でも見られるかを、動画解析により判定する。これにより、異なる測定方法を用いた場合でも保存される、頑強な行動パターンの特徴を同定する。
求愛追跡行動を担う司令中枢ニューロンの作用機序の解明を目指して、求愛追跡行動中の司令中枢ニューロンの神経活動を、カルシウムイメージング法などの方法により測定する。近年、司令中枢ニューロンの機能分担を、単一細胞レベルで解析できる実験手法が開発されつつある(Deutsch et al., 2020など)。この手法を利用して神経活動を測定するなどにより、司令中枢ニューロン集団を構成する個々のニューロンの応答が特定の行動要素と相関するかを解析する。さらに、それぞれの神経活動を人為制御し、それらの活動が特定の行動要素の組み合わせを誘発するかを検証する。
求愛追跡行動に関与すると予想される、歩行制御系を構成するニューロンの解析も進める。近年網羅的に同定された、脳と歩行制御に関わる運動中枢を結ぶ20種類の下降性ニューロン群(Namiki et al. 2018)の中から、求愛追跡行動に関わる歩行制御ニューロンを同定する。与えた感覚刺激の組み合わせ様式や特定の行動要素と神経活動との相関を解析し、各行動要素を駆動する可能性のある歩行制御ニューロンを同定し、活動操作などを通じて、その機能を解析する。以上の解析から、感覚統合が追跡行動に果たす役割とその神経基盤を理解する。
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[Journal Article] STEFTR: A Hybrid Versatile Method for State Estimation and Feature Extraction From the Trajectory of Animal Behavior.2019
Author(s)
Yamazaki SJ,Ohara K,Ito K,Kokubun N,Kitanishi T,Takaichi D,Yamada Y,Ikejiri Y,Hiramatsu F,Fujita K,Tanimoto Y,Yamazoe-Umemoto A,Hashimoto K,Sato K,Yoda K,Takahashi A,Ishikawa Y,Kamikouchi A,Hiryu S,Maekawa T,Kimura KD
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Journal Title
Frontiers in neuroscience
Volume: 13
Pages: 626
DOI
Peer Reviewed / Open Access
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