2019 Fiscal Year Annual Research Report
「遊動」を予測する:モンゴル草原の環境条件と野生草食獣の移動・活動量の関係
Publicly Offered Research
Project Area | Systems Science of Bio-navigation |
Project/Area Number |
19H04938
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Research Institution | Tottori University |
Principal Investigator |
伊藤 健彦 鳥取大学, 乾燥地研究センター, プロジェクト研究員 (50403374)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 移動生態学 / 哺乳類 / 草原生態系 / 季節移動 / モンゴル |
Outline of Annual Research Achievements |
モンゴルの草原地帯に生息し、世界でも有数の長距離移動を行う有蹄類モウコガゼルは、特定の季節行動圏や移動ルートを持たない遊動的な種であるが、短期間での長距離直線的移動も観察されており、ナビゲーション研究の対象としての大きな可能性を秘めている。陸棲大型哺乳類のナビゲーション能力の解明をめざし、モウコガゼルの移動・活動データと環境情報を取得・整備して、移動モデル構築のための好適度地図の作成や、加速度データの有効性評価、環境情報に基づく移動モデルの構築と検証をおこなう。環境条件が異なる地域間の比較も実施する。 2019年度10月に、モウコガゼル分布域のなかで比較的乾燥している南部の砂漠ステップ地域でモウコガゼルの成獣メス9頭を捕獲し、3軸加速度センサー・温度センサー付GPS首輪を装着した。2時間または4時間ごとの位置データを衛星電話システムにより、ほぼリアルタイムで受信している。追跡開始後、2個体の死亡が推定されたが、2020年4月現在、7個体を継続的に追跡できている。これまでのところ、どの個体も最大直線距離で約100kmの移動をしたが、明確な移動期は観察されていない。また、自作の3軸加速度計・カメラシステムをモンゴルで放牧されている家畜のヤギとラクダに装着し、数日間のデータを記録・回収した。 過去に追跡したモウコガゼルの活動量データ解析も進め、数時間単位の活動周期の存在と、活動量や周期の時間帯や季節による変化を明らかにした。過去の移動データ解析からは、春の移動パターンに複数の移動戦略が共存する可能性を示唆した。モウコガゼル種内およびモンゴルに生息する草原棲野生草食獣種間での比較研究も実施し、生息地域の乾燥度の違いにより、夏季の移動パターンが異なることも明らかにした。植生指数や積雪データ等の衛星画像プロダクトや気象データの収集・整備も進めている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
計画した地域でモウコガゼルの捕獲・追跡開始に成功し、位置データを順調に取得できている。過去の追跡個体の活動量データの解析からは、活動周期の季節変化が確認できた。この結果は、生息地選択や移動開始の要因解明に、活動データ地用の有効性を示唆する。当初は予定していなかった、家畜での加速度センサー装着試験も実施し、現在追跡中のモウコガゼル個体の首輪を回収した後に得られる予定の、3軸加速度データに基づく行動分類等に応用可能なデータも取得できた。
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Strategy for Future Research Activity |
2019年10月にモウコガゼルに装着した首輪の一部は1年後に自動脱落する予定になっている。衛星送信される位置データを参照し、首輪を回収して加速度データをダウンロードする。このデータからガゼルの行動分類やエネルギー消費量推定を実施し、環境条件と採食効率等の関係から生息地選択や移動開始・停止要因の解明を目指す。 2020年秋には、モウコガゼル分布域北部の比較的湿潤な草原地域でモウコガゼルの追跡および加速度データ等の記録を開始する。現在追跡中のより乾燥した地域の個体との移動パターンや移動要因の違いを探る。 追跡データとさまざまな環境情報を総合的に解析し、モウコガゼルにとっての好適地地図の作成や移動モデルの構築を進める。
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