2019 Fiscal Year Annual Research Report
Elucidation of molecular mechanisms based on interactions between insulin signaling and lipid metabolism pathways in a neural circuit switch
Publicly Offered Research
Project Area | Integrative understanding of biological signaling networks based on mathematical science |
Project/Area Number |
19H04947
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
富岡 征大 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 助教 (40466800)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 線虫 / 学習行動 / インスリン / ジアシルグリセロール / 蛍光ライブイメージング |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、線虫のASER味覚神経において働くインスリンシグナル伝達に注目し、選択的スプライシングにより作られる2種のインスリン受容体アイソフォームによる学習行動の制御機構を明らかにし、記憶学習に働く新規の分子・神経回路制御を明らかにすることを目的とする。以下に、本年度の研究の進展及び得られた知見を記載する。 ○学習行動時にインスリン経路が働くASER味覚神経に接続する、2種の介在神経(AIA及びAIB神経)の条件付けに伴う活動変化を蛍光ライブイメージングにより同時計測した。結果、これらの神経は条件付け後に活動性が変化し、その変化は相互排他的であることが分かった。ASER神経からのシナプス伝達を遮断すると条件付けに依存したAIA神経の神経可塑性が低下した。AIA神経はインスリン様ペプチドを発現する主要なニューロンである。以上から、AIA介在神経はASER感覚神経の活動に依存してインスリン様ペプチド放出を変化させることで、ASER神経で働くインスリン受容体経路の働きをフィードバック制御し、学習行動を増強するというモデルが示唆された。一方、AIB神経の条件付けに依存した活動変化は、学習に依存した運動制御に関わることが示唆された。 ○ASER神経で働くインスリン経路が制御する新規分子を同定した。分子遺伝学的な解析から、ASER神経の軸索に局在するインスリン受容体アイソフォームからのシグナル伝達は、この分子のリン酸化を介してジアシルグリセロール産生を制御することで学習行動を調節する、というモデルが示唆された。 ○軸索で働くインスリン受容体アイソフォームが制御するリン酸化タンパク質を網羅的に同定するための準備として、リン酸化プロテオーム解析に必要な線虫株を作成した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
目標としていた学習行動を制御する主要な神経回路の活動を、2種の介在神経の同時ライブイメージングにより観測することに成功し、さらに、この解析から学習行動の制御に関わるインスリン様ペプチドによるフィードバック制御の実体が明らかになった。また、ASER神経においてインスリン経路がリン酸化制御する分子機構の解析が進んだ。一方で、学習時にインスリン経路に依存して働く転写制御の解析に関しては、解析の難易度が予想に反して高く、解釈が可能な結果を得ることが出来なかった。
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Strategy for Future Research Activity |
○本年度明らかにした、ASER神経の軸索においてインスリン経路により制御される分子の活性をライブイメージングするために、活性をモニターする蛍光プローブを作成し、学習時や学習後のASER神経軸索におけるこの分子の活動変化を観測する。この解析により、インスリン経路に依存した神経可塑性制御の動態にせまる。 ○学習行動の制御において、インスリン経路がASER神経軸索のジアシルグリセロール産生を調節するしくみをより詳細に明らかにするために、複数のホスホリパーゼアイソザイムに注目し、インスリン経路を介してジアシルグリセロール量を調節するしくみに迫る。そのために、CRISPR/Cas9法を用いたASER神経特異的な遺伝子ノックダウン法を整備し、詳細な分子遺伝学的解析を進める。 ○解析手法を改変することにより、本年度行う予定であった細胞種特異的なトランスクリプトーム解析を遂行する。これにより、遺伝子発現制御を介してインスリン経路が学習を制御する新たな機構を明らかにする。 ○本年度作成した線虫株をもちいて、リン酸化プロテオーム解析を進める。これにより、インスリン経路が学習行動時に神経軸索においてリン酸化制御する分子機構を包括的に理解する。
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