2019 Fiscal Year Annual Research Report
初期胚の神経領域規定におけるBMPシグナリングのメカノレギュレーション
Publicly Offered Research
Project Area | Integrative understanding of biological signaling networks based on mathematical science |
Project/Area Number |
19H04948
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
道上 達男 東京大学, 大学院総合文化研究科, 教授 (10282724)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | BMPシグナリング / 細胞張力 / 外胚葉パターニング |
Outline of Annual Research Achievements |
脊椎動物胚の外胚葉では中内胚葉からの分泌因子によりBMPシグナルの濃度勾配が作られ、神経・表皮、そして両者の境界に神経堤や予定プラコードからなる神経板境界(NPB)領域が形成される。NPB領域はその幅の狭さにもかかわらず個体間の差が大きくなく安定して誘導されるが、その頑強性が担保される理由については不明な点が多い。我々は、その理由の一つとしてNPB領域近傍にかかる“力”に着目している。本課題ではツメガエル胚を用い、プラコード形成に細胞張力依存的な細胞内シグナル(特にBMPシグナル、FGFシグナル)の制御が関わっているか、そしてそれが領域形成の頑強性に重要かどうか調べることを目的として研究を進めている。本年度の成果は以下の通りである。①シリコン製ストレッチチャンバーを用いて外胚葉シートに伸展力を加えた時、細胞におけるBMPシグナルの強度が変化するかどうかを免疫染色、ウエスタンブロットにより調べた。その結果、Smad1/5のリン酸化が進展刺激によって少しではあるが亢進することが明らかとなった。②予定表皮外胚葉の細胞シートにおいて、BMP阻害因子の注入の有無によりシートの変形度合いに違いが生じるかどうかを調べたところ、BMP阻害因子の注入時に伸展度が低いことを見いだした。この結果は、神経外胚葉と表皮外胚葉で硬さが異なることを示唆しており、両者の境界面で力のひずみが生じるという当初の作業仮説を支持するものである。③神経板近傍領域に恒常活性型ミオシン軽鎖キナーゼを微量注入し分子的に細胞に張力を付与した時、BMPシグナルの強度が変化するかどうかを調べたところ、MLC注入領域近傍においてリン酸化Smad1/5の核における存在量が増加することを見いだした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
①ツメガエル胚の外胚葉において、細胞にかかる物理的な力がBMPシグナルの強度にどのような影響を与えるかを調べるため、外胚葉シート細胞をシリコンチャンバーに貼り付けて伸展力を加えた後、リン酸化Smad1/5抗体を用いた免疫染色、あるいはウエスタンブロットを行うことで調べた。その結果、若干ではあるが、Smad1/5のリン酸化が進展刺激によって亢進することが明らかとなった。また、張力負荷の方向を前後軸方向、横方向に加えた時、影響に違いが生じるかどうかも検討したが、これについては現在のところ違いを示す結果は得られていない。 ②神経外胚葉と表皮外胚葉で異なる細胞の”硬さ”に着目し、互いに接触する両細胞群が同時に引っ張られる際の物理的ひずみに起因する力が境界領域の分化に影響を与えるという作業仮説に基づき、ツメガエル胚の予定表皮外胚葉、BMP阻害因子を注入することにより神経化した外胚葉片を用い、伸展による組織片の変形度合いに両者で違いがあるかどうかを調べたところ、BMP阻害因子注入シート(予定神経外胚葉に相当)の方が伸展度が低いことを見いだした。この結果は、少なくとも神経外胚葉と表皮外胚葉で硬さが異なることを示唆している。また、本課題の提案時にたてた作業仮説である、表皮外胚葉と神経外胚葉の境界において硬さの違いに起因する歪みが生じ、力が発生するという作業仮説を支持するものとなった。 ③神経板の近傍領域に恒常活性型ミオシン軽鎖キナーゼ(caMLC)を微量注入することで分子的に細胞に張力を付与した時、BMPシグナルの強度が変化するかどうかを調べた。その結果、MLC注入領域近傍において、リン酸化Smad1/5の核における存在量が増加することを見いだした。このことは、MLCを介した細胞への張力付与がBMPシグナルの強度を変化させる子可能性があることを示している。
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Strategy for Future Research Activity |
令和2年度においては、以下の研究を進める。 ① 外胚葉に様々な力をかけるとことでBMPシグナルの強度に変化があるかどうかについて、引き続き実験を進める。伸展方向によるBMPシグナル強度の違いは、今年度も引き続き検討する。また、ミオシンの微量注入による分子的な伸展刺激系におけるBMPシグナル強度の変化についても、引き続き実験を進める。 ②今年度は、新たにiPS細胞を用いた神経分化系の中での伸展刺激の影響を調べる。具体的には、京大株201B7またはTKDN4m株を用い、nogginとTGFbインヒビターにより神経板・プラコード・神経堤にそれぞれ分化させる条件において、伸展刺激を加えると分化方向がどのように変化するか、更にはBMPシグナルの強度がどのように変化するかについて検証する。 ③神経外胚葉と表皮外胚葉の境界に生じる物理的ひずみが境界領域でBMPシグナル活性を変化させるかどうかを、今年度は本格的に検証する。具体的には、BMPシグナルの強い領域と弱い領域を持つ細胞シートを伸展し、両者の境界領域でのBMPシグナル強度を検証する。また、この実験についても伸展方向による伸展度合いの違いを検証することで、外胚葉シートの硬さの方向依存性を検証する。更には、発生段階による傾向の違いも併せ検討する。 ④また、本年度は細胞形状に着目し、神経外胚葉と表皮外胚葉の領域の変形を数理モデルによりシミュレーションしたい。具体的には、細胞シートにかかる力とシートの硬さの条件を様々に与えた時、組織がどのように変形するか、そしてそれに伴い細胞形状がどのように変化するかをシミュレーションした上で、それが実際の胚における領域の変形とどの程度一致するかを検証する。 ⑤研究遂行に余裕がある場合には、FGFシグナル強度の細胞張力依存性についても調べたい。
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[Book] 生物学入門 第三版2019
Author(s)
嶋田正和、上村慎治、増田建、道上達男(編)
Total Pages
298
Publisher
東京化学同人
ISBN
9784807909520