2019 Fiscal Year Annual Research Report
mTORC1シグナル制御の分子基盤とその破綻による病態解明
Publicly Offered Research
Project Area | Integrative understanding of biological signaling networks based on mathematical science |
Project/Area Number |
19H04962
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
岡田 雅人 大阪大学, 微生物病研究所, 教授 (10177058)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | mTOR / mTORC1 / Ragulator / p18 / Lysosomes / 腸上皮 / ムチン / オルガノイド |
Outline of Annual Research Achievements |
mTORC1は、細胞の栄養状態に応じて同化と異化のバランスを調節することにより、細胞の成長や生存に必須の役割を担う制御因子であり、その制御破綻は糖尿病やがんなどの疾患と密接に関わる。mTORC1の活性は、アミノ酸に依存してリソソーム膜上でp18-Ragulator-Rag複合体(p18複合体)と相互作用することにより制御されることが示されているが、その分子機序にはまだ不明な点が多く残されている。そこで本研究では、mTORC1の活性制御機構の全容解明を目指して、1)p18複合体とその活性制御因子との相互作用の分子基盤解析、2)mTORC1シグナルの数理モデルの構築、3)大腸上皮におけるp18複合体の生理機能の解析を行い、以下の成果を得た。 1)申請者らは、X線結晶構造解析より、p18複合体が6種の小サブユニットがp18によって一定方向にラッピングされたユニークな構造を取ることを明らかにした。過年度の研究では、p18欠損細胞などを用いた細胞レベルでの遺伝学的解析より、p18複合体の複雑な構造がアミノ酸に依存したmTORC1の活性制御に必須であることを証明した。2)細胞および分子レベルでの情報に基づいて、アミノ酸によるp18複合体およびmTORC1の活性調節機構の数理モデルの構築を試みた。領域内での共同研究により基本的なモデルの構築が終了し、現在、それに基づいたシミュレーションを試みている。3)がんを多発する大腸上皮細胞をターゲットにしたp18 KOマウスを用いて、p18複合体とmTORC1シグナルの大腸上皮における生理機能を解析した。その結果、p18欠損によるmTORC1の不活性化により、大腸のゴブレット細胞の発達、特に腸粘膜の主要成分であるムチンの産生が著しく低下することが見出された。またこの現象を大腸オルガノイドでのin vitroの系でも再現することに成功した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、1)p18複合体とその活性制御因子との相互作用の分子基盤解析、2)mTORC1シグナルの数理モデルの構築、3)大腸上皮におけるp18複合体の生理機能の解析、の三つの課題について研究を進めてきた。P18複合体の機能解析に関しては、精製タンパク質を用いた電子顕微鏡による解析を進めてきたが、先に報告されたため中断し、関連する分子(p18, Gator1, FLCN, TSC1/2, Rhebなど)をゲノム編集でノックアウトした細胞をして、遺伝学的にp18複合体の役割を検証することに成功した(論文投稿中)。また、その系において、これまでにない新しいメカニズムの存在が見出された。数理モデルに関しては、モデル構築までできてきたため、今後シミュレーションに取り組む予定である。大腸上皮での生理機能解析は組織およびオルガノイドでの解析はほぼ終了し、p18-mTORC1シグナルのゴブレット細胞におけるムチン産生における重要かつ特異的な機能を明らかにすることに成功した(論文投稿中)。以上より、概ね順調に進捗したと判断している。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、遺伝学的解析から見出された新しいメカニズムの解明を進め、また比較的遅れている数理モデルによるシミュレーションを完成することにより、特にアミノ酸位よるmTORC1の活性制御機構の全容を明らかにしてゆく予定である。また、大腸上皮での生理機能解析をさらに発展させて、大腸がんモデルマウスの導入により大腸がんにおけるmTORC1の寄与を解析する予定である。
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