2019 Fiscal Year Annual Research Report
超大規模電気生理学を用いた睡眠中のオフライン学習アルゴリズムの解析
Publicly Offered Research
Project Area | Correspondence and Fusion of Artificial Intelligence and Brain Science |
Project/Area Number |
19H04986
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Research Institution | Osaka City University |
Principal Investigator |
宮脇 寛行 大阪市立大学, 大学院医学研究科, 助教 (40785979)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 記憶固定化 / 睡眠 / 超大規模電気生理学 |
Outline of Annual Research Achievements |
情動を伴う経験は生物にとって重要な意味を持ち、またそのような経験は記憶されやすいことが知られている。本研究は、情動を伴う経験をより効率よく記憶する神経メカニズムを解明し、重要な経験を効率的に記憶する学習アルゴリズムを構築するための基礎的な知見を得ることを目的とする。この目的のため、恐怖条件付け学習と空間記憶を組み合わせた課題をラットに行わせ、超大規模電気生理学を用いることで課題遂行中ならびにその前後の睡眠中の神経細胞の活動を扁桃体・腹側海馬・大脳皮質前頭前野の多数の神経細胞から同時に記録した。 このようにして得られた多数の神経細胞の活動について独立成分分析を行い、経験時の活動パターンを抽出し、それぞれのパターンが睡眠中に再現されているか否かを解析した。その結果、情動を伴う経験の後では、一部の神経活動パターンがより頻繁に現れるようになるという結果を得た。この解析はそれぞれの脳領域で別個に行ったが、扁桃体、腹側海馬、大脳皮質前頭前野のいずれにおいても神経活動パターンの再活性化が観察された。 次に、異なる脳領域の神経活動パターンの再活性化のタイミングを相関関数解析を用いて解析した。その結果、強い情動を伴う経験の後では、扁桃体ー大脳皮質前頭前野および腹側海馬ー大脳皮質前頭前野において神経活動パターンの再活性化が同期して起きていることが示唆された。一方、情動を伴わない新規経験の後では、このような同期した神経活動パターンの再活性化は見られなかった。また、睡眠中にはノンレム睡眠とレム睡眠の2つの脳状態が交互に現れることが知られているが、脳領域間の同期した再活性化はノンレム睡眠の間に特に顕著に見られることが明らかとなった。 これらの予備的な結果は、情動を伴う経験によって異なる脳領域の間に機能的なネットワークが形成される可能性を示唆するものである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
まず、2つの新規環境を情動を伴うか否かで差別化し、それぞれの探索中およびその前後の睡眠中の神経活動を連続して記録することができた。さらに、それぞれの脳領域について睡眠中に経験時の神経活動パターンが再現されていることを、独立成分分析を応用することにより明らかにできた。これらにより、申請時に本年度に予定していた研究計画を概ね達成することができた。さらに予備的なものではあるが、情動を伴なう経験の後には複数の脳領域の間で同期した神経活動パターンの再活性化が起こるという予想しなかった結果を得ることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでに得られた、情動を伴う経験により脳領域間の同期した再活性化が現れるという予備的な結果は、本研究の目的である情動を伴う経験が効率的に記憶されるメカニズムの解明を達成する上で重要な知見である。そこで次年度は予定を若干変更し、まず脳領域間の同期した再活性化がいつ、どのように起きているかを解明するためにさらに解析を進める。その後、申請時に予定していた光遺伝学を用いた神経活動阻害に取り組む。その際にはまず、上述の解析の結果を踏まえどのような光遺伝学的操作を行うことが睡眠中のオフライン学習メカニズムの解明に最も有効であるかを検討し、適宜予定を見直しながら進める。
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