2019 Fiscal Year Annual Research Report
メソポタミア外縁における新石器化から都市化への移行に関する研究
Publicly Offered Research
Project Area | The Essence of Urban Civilization: An Interdisciplinary Study of the Origin and Transformation of Ancient West Asian Cities |
Project/Area Number |
19H05030
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Research Institution | Kanazawa University |
Principal Investigator |
小高 敬寛 金沢大学, 国際文化資源学研究センター, 特任准教授 (70350379)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | メソポタミア / 肥沃な三日月地帯 / 新石器化 / 都市化 / 編年 / 物質文化 |
Outline of Annual Research Achievements |
4月から8月まで、イラク・クルディスタン自治区シャフリゾール平原に所在するシャイフ・マリフ遺跡の調査を実施する予定で事前準備を進め、イラク・クルディスタン地域政府文化財局に対し発掘調査等の申請手続きを行なった。 しかし、2019年は天候不順により隣在するダム湖の水位が高く、乾季終盤の8月末になっても本遺跡は湖中にあったため、調査を断念せざるを得なかった。そこで急遽、代替となる遺跡選択のため踏査を行なった後、南対岸に所在するシャカル・テペ遺跡の調査を追加申請し、9月に遺跡北側緩斜面の長さ9.5m×幅2.0mの範囲で、地山にまで達する深さ約5mの発掘調査、および遺跡全体の地形計測と周辺環境調査を実施することができた。 調査後、10月から3月まで、調査で得られた記録類を整理し、情報の分析を行なった。併せて、持ち帰った採取試料の理化学的分析を進め、特に放射性炭素年代測定は11点の測定結果を得ることができた。 これらの研究の結果、シャカル・テペ遺跡でシャフリゾール平原内に発掘例のない紀元前7千年紀後半の文化層の存在を確認でき、それは放射性炭素年代によっても追認された。また、そこからの出土遺物は極めて強い地域色を示すこと、そして、その内容の解明には更なる資料の充実が求められることが分かった。特に石器は、新石器時代のクルディスタン地域でよく知られている技術とは異なる技術で製作されたものが多くを占めていた。周辺環境調査によって、これらの製作には近隣の涸れ河(ワディ)の河道で採取可能な石材を使っていたことが示唆されており、正しく在地の石器製作伝統を示すものと考えられる。また、土器も周辺地域で編年上の基準として敷衍されている北メソポタミアの型式とは一線を画す。シャイフ・マリフ遺跡の表面採集土器と重なる型式学的特徴もあり、今後は同遺跡の発掘調査によって遺跡間の編年関係を精査することが望まれる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2019年の特殊な事情により、当初の予定とは異なる遺跡の調査を実施することになったものの、幸いにして目的に即した紀元前7千年紀後半の考古資料を発掘によって得ることに成功した。研究前の予備調査結果では、発掘したシャカル・テペ遺跡で当該時期の文化層の検出は困難であると予想していたため、これは望外の成果である。研究の厚みと広がりに更なる可能性をもたらせたという意味において、当初の計画以上の進展に達したともいえるだろう。 しかし一方で、本来の調査対象であったシャイフ・マリフ遺跡には、紀元前7千年紀後半だけでなく紀元前6千年紀前半の文化層の存在も予想されており、それを発掘調査によって検証し、物質文化が明らかにされていない新石器化から都市化への移行期、即ち前7千年紀後半~前6千年紀前半の空白を埋める地域編年の構築することが本研究の目的である。したがって、空白を埋め切れなかったという意味においては、現時点での研究の到達点は未だ道半ばともいえる。 本研究の期間がちょうど中間に差し掛かったところという点を鑑みれば、以上の理由から、研究はおおむね順調に進展しているという自己評価が妥当と考える。
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Strategy for Future Research Activity |
2019年に発掘調査したシャカル・テペ遺跡の出土資料を整理・分析するとともに、当初の調査予定遺跡であったシャイフ・マリフの発掘調査を実施し、物質文化が不明な新石器化から都市化への移行期、即ち前7千年紀後半~前6千年紀前半の空白を埋める地域編年の構築する。 シャカル・テペ遺跡では前7千年紀後半の文化層の検出に成功しているため、出土資料の詳細な整理・分析を通じて、地域性の強い同時期の物質文化の内容解明に努める。残る前6千年紀前半の堆積はシャイフ・マリフ遺跡で存在が推定されるため、この推定の正否を層位学的情報の分析や理化学的年代測定によって確かめ、考古学的空白を埋める。更に、出土資料の整理・分析から、この時期についても物質文化の内容と地域性を把握する。なお、シャイフ・マリフ遺跡の調査については、既にイラク・クルディスタン地域政府文化財局に申請済みであり、手続き上は即時取り掛かる準備ができている。 2遺跡の調査データを相互に検証しつつ統合することで地域編年を構築し、物質文化の変遷を把握する。そして、構築された編年に基づき、物質文化にみられる固有の地域性と他地域からの影響を通時的に評価する。更に、この時期における地域間交流の変化を捉え、社会再編とメソポタミア低地開発との関係を考察することで、本研究をまとめる。 但し、新型コロナウィルス感染症の影響により、現時点では現地渡航のままならない事態が続いている。9月までの乾季のうちに情況が好転しない場合、シャイフ・マリフ遺跡の発掘を断念し、シャカル・テペ遺跡出土資料の分析に注力すべく、可能になった時点で現地保管資料の精査を実施する。更に、年度内の渡航は困難という見通しが立った場合、2019年のシャカル・テペ遺跡の調査データおよび国内移送した出土資料のサンプル、そしてシャイフ・マリフ遺跡の予備調査データの詳細な分析を軸に、研究の補完を図る。
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Research Products
(7 results)