2019 Fiscal Year Annual Research Report
高時間分解能ガス電子増幅型光検出器RPC-PMT用光電面の開発
Publicly Offered Research
Project Area | Exploration of Particle Physics and Cosmology with Neutrinos |
Project/Area Number |
19H05099
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
松岡 広大 名古屋大学, 素粒子宇宙起源研究所, 特任准教授 (70623403)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 光検出器 / ガス増幅 / 時間分解能 / 光電面 / ニュートリノレス二重ベータ崩壊 |
Outline of Annual Research Achievements |
原子核内の中性子がほぼ同時に陽子になる崩壊過程で、通常放出されるはずのニュートリノが放出されず2本のベータ線のみが放出される崩壊が見つかれば、反物質が現在の宇宙に存在しない謎の解明に向けた大きな一歩となり得る。私は、ベータ線の飛行時間を超精密に測定することでその崩壊を高感度で探索できる新しい手法を考案した。そこでは、非常に優れた時間分解能の光検出器で大面積を覆う必要があるため、高時間分解能・大面積・安価の3拍子揃った革新的な光検出器を開発している。それは、平行平板電極間にガスを満たしただけの単純な構造で、アバランシェ増幅により光電子を増倍するもので、1光子を10ピコ秒以下の時間分解能、約90%の収集効率で測定できると期待される。その優れた時間分解能と収集効率の実証、およびガス中でも安定に動作する光電面の開発が実用化へ向けた主な課題である。本研究では、試作機用光電面の開発、試作機の時間分解能の評価、収集効率測定用のCsI光電面の製作、実機用のバイアルカリ光電面の検討を行った。 試作機用のLaB6光電面をスパッタ装置を用いて製作する手法を確立した。LaB6光電面は近紫外線領域波長に感度があるが、量子効率は非常に低い。しかし、空気に曝しても劣化しにくいため、試作機の組み立てと内部構造の変更が格段に容易になる。 時間分解能はピコ秒パルスレーザーを用いて評価した。読み出し回路の時間分解能とレーザーの時間幅を差し引いた光検出器自体の時間分解能は、1光子検出において標準偏差で37ピコ秒であった。既存の光検出器の中で最高の時間分解能は約30ピコ秒であるが、すでにそれに匹敵する時間分解能が得られている。ノイズの低減など、改善の余地は大いにある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
量子効率の高い実用的な光電面は真空装置中で取扱い、光検出器のガス容器は封じ切らなければならない。したがって、光検出器の内部設計は、試作機の性能評価の結果をもとに最適化する必要がある。しかし、時間分解能評価のための測定ベンチが損傷してしまい、3ヶ月ほど測定が止まってしまった。さらにその間、試作機に用いているLaB6光電面を不用意に空気中に長期間曝して劣化させてしまい、測定ベンチの復旧後、レーザーの信号がまったく見えなくなってしまった。これにより、さらに数ヶ月、研究計画に遅れが生じた。
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Strategy for Future Research Activity |
これまで、量子効率が極めて低いが空気中で劣化しにくいLaB6光電面を付けた手作りの試作機で性能を評価してきた。今後は、実用的なバイアルカリ光電面を付けた試作機を製作し、ピコ秒パルスレーザーを用いてその増幅率と時間分解能を再確認する。次に、LED光を一定間隔で照射し続ける中で信号の計数率をモニターすることで、ガス中で光電面が劣化して量子効率が低下するか試験する。バイアルカリ光電面はPMTの光電面として広く使用されていて、600nm以下の波長領域に感度があり、420nmで27%程度の高い量子効率を得ることができる。 また、真空紫外光に感度が高いCsI光電面を付けた別の試作機も製作し、同様の試験を行う。CsI光電面は別種のガス検出器内で長期間安定に動作した実績があり、感度波長が限られているものの、本光検出器の光電面として有望である。 これら光電面の評価と並行して、収集効率を測定する。CsI光電面を付けた試作機にXeランプからの真空紫外光を照射し、次の異なる2つの方法で収集効率を測定する。(1)1光子に対する信号の計数率を光子検出効率が既知の光検出器MPPCと比較する。このとき、CsI光電面の量子効率は別途測定しておく。(2)連続光に対する出力電流を電流計で測定する。このとき、ガス増幅率は別途測定しておく。
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