2019 Fiscal Year Annual Research Report
放射光による局所応力評価法を用いたミルフィーユ構造材料のキンク形成機構の解明
Publicly Offered Research
Project Area | Materials science on mille-feullie structure -Developement of next-generation structural materials guided by a new strengthen principle- |
Project/Area Number |
19H05119
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Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
宮澤 知孝 東京工業大学, 物質理工学院, 助教 (70648039)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | ミルフィーユ構造材料 / LPSO型Mg合金 / Ridge型キンク / 放射光 / 白色X線 / エネルギー分散型X線回折 / 局所ひずみ |
Outline of Annual Research Achievements |
硬質層と軟質層が層状に積み重なったミルフィーユ構造を持つLPSO型Mg合金は,圧縮変形においてキンク帯の形成を伴う塑性変形を生じる.さらに形成されたキンクはLPSO相の積層面に平行なすべりを抑制するため,強化機構としての機能も併せ持つ.そのため,キンクの形成機構を理解し,制御することができれば,材料の機械特性の向上を図ることができる.しかし,キンクの形成機構は未解明な点が多い.その一つはキンク形成による局所ひずみ変化である.LPSO相に生じるキンクは材料に負荷されるひずみが十分に大きくなった段階で形成するため,局所的なひずみ緩和が生じていることが予測されるが,キンク近傍での局所的なひずみを実測した研究は少ない.そこで本研究では,放射光白色X線マイクロビームを用いたエネルギー分散型X線回折顕微法(Energy dispersive X-ray diffraction microscopy, EXDM)に着目した.同手法では,金属材料のミクロスケールでの局所応力・ひずみ分布の評価が可能な手法であり,LPSO型Mg合金にも適用できる.本研究ではEXDM法を用いることで18R型LPSO単相Mg-Zn-Y合金中に圧縮変形によって形成されたRidge型キンクおよびその近傍での局所的な残留ひずみを実測した.その結果,キンク先端には引張ひずみが残留していることがわかった.これは,結晶粒がキンク形成によってくの字状に折れ曲がるのを向かい合う隣の結晶粒からの拘束を受けることにより,キンク先端部に引張ひずみが残留したと説明できる.また,キンク境界上に大きな圧縮ひずみが残留した点があり,Ridge型キンクをはさんでひずみの分布は非対称であることがわかった.この非対称なひずみの分布はRidge型キンクが片側での"pre-kink"の界面移動により成長するという非対称性と整合する結果といえる.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初予定では,2019年度は典型的なミルフィーユ構造を持つMg-Zn-Y合金を用いて圧縮変形によって形成したキンク近傍の局所的な残留応力を放射光を用いて評価することを計画していた.その中で懸念されたのは,放射光で測定したエネルギー分散型X線回折のデータから局所応力テンソルへの解析においてhcp構造材料解析のためのプログラム作成ができない状況である.2019年度の研究では,18R型LPSO単相Mg-Zn-Y合金中に圧縮変形によって形成されたRidge型キンクおよびその近傍における放射光でのエネルギー分散型X線回折のデータの測定は無事終えられたが,それらデータから抽出できたのは,限られた結晶格子面での格子ひずみとなった.局所応力のテンソルの解析には各測定点において複数の結晶格子面の格子ひずみが必要なるが,これが困難となったため,局所応力テンソルの解析はできなかった.これは計画の段階で懸念していた状況とほぼ同等であり,局所応力テンソルの解析ができない場合は,結晶格子面の格子ひずみにより材料内局所でのひずみの分布を調査することで対処することを計画していたため,計画に従い格子ひずみよりキンク近傍の残留ひずみ分布を調査した.その結果,Ridge型キンク近傍の局所残留ひずみの分布を明らかにすることに成功し,その形成機構について議論することができた.これらのことから,研究はおおむね順調に進展しているといえる.
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Strategy for Future Research Activity |
2019年度の研究により18R型LPSO単相Mg-Zn-Y合金中のRidge型キンク近傍の局所ひずみを放射光白色X線によるEXDM法によって評価することができた.また,その局所ひずみ分布よりRidge型キンクは片側での"pre-kink"の界面移動により非対称的に成長することと整合する結果が得られた.しかし,これらの結果はすでに形成されたキンク近傍に残留したひずみであり,キンクの形成前から形成中にどのようにひずみが推移するかは調査できていない.キンクの形成機構を明らかにするためにはこのキンクの形成前後のひずみの変化を明らかにすることは必須となる.特に"pre-kink"は結晶方位回転を伴う局所的な変形集中領域となるため,局所ひずみにその兆候が生じることが予測される.これを捉えるための実験として,2020年度はミルフィーユ構造を持つMg-Zn-Y合金を用い,圧縮試験中その場局所ひずみ測定の実施を計画している.具体的な実験として,18R型LPSO単相Mg-Zn-Y合金より切り出した試験片に無負荷の状態から圧縮荷重を負荷しながら,放射光白色X線を用いたEXDM法によってキンクが形成される前後の局所ひずみを測定していく.そして,得られた圧縮荷重下でのキンク近傍の局所ひずみからキンク形成初期における"pre-kink"の発生,"pre-kink"からキンクへの発達過程を明らかにし,キンクが生じる原因とその形成・発達機構を解明していく.
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Research Products
(2 results)