2019 Fiscal Year Annual Research Report
Non-empirical description of emergence of quantum clusters and low-energy nuclear reaction
Publicly Offered Research
Project Area | Clustering as a window on the hierarchical structure of quantum systems |
Project/Area Number |
19H05142
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
中務 孝 筑波大学, 計算科学研究センター, 教授 (40333786)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 低エネルギー核反応 / クラスター / 密度汎関数法 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題は、原子核の低励起状態、および低エネルギー核反応におけるクラスターの出現・消滅機構を、微視的に記述する理論の開発と計算コードの整備を目的としている。2019年度には、対相関を無視した時間依存ハートレー・フォック理論に基づき、比較的軽い原子核同士の核融合反応に対して、集団核反応経路の同定を行い、集団慣性質量・集団ハミルトニアンの微視的導出を実施した。特に、原子核内部では核子の有効質量が真空中の質量よりも2-3割程度軽くなっていることが平均場模型に取り入れられているが、一般に良く使われれる集団質量公式(クランキング公式等)では、この効果が集団質量にも直接反映し、例えば、原子核全体が並進する重心運動の質量を計算すると、原子核の質量よりも小さくなってしまう。これは明らかに間違いであり、本来系が持つべきガリレイ対称性が静的平均場で破れていることに起因する。我々が開発した理論に基づく集団質量では、この欠点が解決され、自動的に平均場レベルで敗れた対称性を回復することが示された。開発した手法を用いた数値計算の結果として、軽い原子核の低エネルギー反応における集団質量の効果が明らかとなり、実験で観測されている深部サブバリア核融合反応断面積の著しい低下について、これまでの現象論的解析とは異なる微視的解釈が与えられた。また、対相関(核子対凝縮)を取り入れ、静的ハートレー・フォック・ボゴリューボフ(HFB)理論に基づく3次元の非制限計算の計算コードを開発し、中性子星クラストにおけるクラスター出現に応用した。これらの成果を発展させ、時間依存HFB理論の枠組みにおいて低エネルギーの量子的核反応に適用することを目指している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2019年度当初、ASCC法の基礎方程式である動的平均場と動的乱雑位相近似の数値解法を確立し、これに基づくコード開発を実施することを実施計画としたが、この目的はほぼ達成できた。一方で、対相関(核子対凝縮)を取り入れた(時間依存)ハートレー・フォック・ボゴリューボフ(HFB)理論への拡張については、3次元座標空間表示で静的な非制限平均場計算を行うことに成功したが、その計算コストは当初見込み以上であり、現状、このまま非制限計算でASCC法を実装するのは現実的に困難だと判断した。そこで、軸対称性を仮定した計算に変更することにしたが、この変更に関しても、当初からの代替プランとして用意されていたものである。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでに比較的軽い原子核を対象とした数値計算コードの開発を行ってきたが、重い原子核への応用を視野に入れた開発を実行する。このために、対相関(核子対凝縮)を取り入れ、(時間依存)ハートレー・フォック・ボゴリューボフ(HFB)理論に基づく集団核反応経路の同定、ガリレイ対称性を回復させた集団慣性質量の計算、などが実行可能なコード開発を実施する。2019年度に、3次元の非制限計算の計算コードを開発し、中性子星クラストにおけるクラスター出現などに応用したが、計算量が非常に大きいため、軸対称性を仮定した形での開発を目指すことにする。現在、HFBTHOと呼ばれる汎用計算コードを発展させることによって、この目標の実現を目指している。これらの開発により、重い原子核の核反応・核分裂における様々な謎に挑戦できる理論的・計算的基盤を整備したい。対相関がもたらす新規の量子揺らぎの効果を、核反応実験データから定性的・定量的に見積もることを目指す。
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