2019 Fiscal Year Annual Research Report
高エントロピー系合金に内在する局所構造普遍性・特異性のパルス通電によるあぶり出し
Publicly Offered Research
Project Area | High Entropy Alloys - Science of New Class of Materials Based on Elemental Multiplicity and Heterogeneity |
Project/Area Number |
19H05166
|
Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
谷本 久典 筑波大学, 数理物質系, 准教授 (70222122)
|
Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2021-03-31
|
Keywords | 高エントロピー合金 / 局所構造 / パルス通電 / 電気抵抗 / 結晶配向性 |
Outline of Annual Research Achievements |
緩和時間~3ミリ秒で指数的に時間減衰するパルス電流を印加することで、非晶質ZrCu合金(a-ZrCu)ではZrCu金属間化合物のナノ結晶子が形成される。このときの試料温度は通電開始後数ミリ秒後に最高で約150℃に達する程度であり、原子の熱拡散により結晶化しているとは考えにくい。超音波照射により非晶質合金内のある局所領域で結晶化が促進されるとの報告も踏まえると、パルス通電によりa-ZrCuに内在する結晶ライクな局所構造においてナノ結晶子が促進されること、さらにはパルス通電で共鳴的な原子集団運動が励起されてマルテンサイト相変態的に結晶化が生じていることを示す。 3種類以上の元素を等比で合金化した固溶体の一部では、高強度かつ高延性、原子拡散抑制に伴う高温安定性など、これまでの固溶体では考えられない特異物性の発現が報告されている。このような固溶体では混合のエントロピーが大きく影響しているとの指摘から、高エントロピー合金(HEA)と呼ばれ2010年ごろの発見から最近注目を浴びているが、その特異物性の発現機構や微視的な組織などはまだまだ理解が進んでいない。 HEAは結晶なので長距離格子周期性は存在するが、化学的には原子配列が乱雑でかつ局所的に大きな格子変位を有する。HEAでの化学的乱雑性や大きな局所歪みの存在は、非晶質合金に類似の局所構造が存在する可能性を示しており、長距離原子移動の抑制などHEAの特異物性発現に関与していることが予想される。そこで本研究では、代表的なHEAであるCrMnFeCoNi-HEAに対してパルス通電を行い、その電気抵抗や組織変化について調べ、非晶質合金との比較から局所構造の存在及びその動的状態安定性について検討した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初期電流密度(id0)から時定数3ミリ秒で時間減衰するパルス電流を、id0を増大させながらCrMnFeCoNi-HEAに印加し、その後の電気抵抗及び組織変化を評価した。比較のために、同程度の電気抵抗率を有する結晶質NiCrリボン及びa-ZrCuに対しても同様なパルス通電を行った。a-ZrCuではid0 = 0.63 GA/m2のパルス通電後により通電前から約35%もの電気抵抗減少が見られ、そのX線回折測定では高温安定相の立方晶ZrCuや斜方晶ZrCrの形成が確認された。これに対して結晶質NiCrではパルス通電によりa-ZrCuで見られるような大きな電気抵抗減少は全く起こらず、id0 = 0.8 GA/m2にかけて電気抵抗は微減する傾向を示したのち増大に転じ、id0 = 1.2 GA/m2の通電後では約1%の抵抗増大が見られた。 CrMnFeCoNi-HEAのパルス通電による電気抵抗変化では、id0 = 1.1 GA/m2の通電後もa-ZrCuのような大きな電気抵抗減少は見られず、id0 =~1.0 GA/m2までの通電において結晶質NiCrと同様な一旦微減から増大に転じる様子が見られた。id0 =1.1 GA/m2で通電した試料のX線回折測定結果はFCC単相のままで他の相の形成は確認できなかった。すなわち、a-ZrCuのように準安定でナノ結晶化しやすいような局所構造はCrMnFeCoNi-HEAには存在しないと推測される。しかしながら、試料表面に対して(100)面が平行となる100配向性が通電後に弱くなる傾向が見られ、結晶粒の方位回転を生じさせるような組織変化がパルス通電で起きている可能性が考えられる。
|
Strategy for Future Research Activity |
乱雑構造内に内在する局所構造をあぶりだすことのできるパルス通電実験をCrMnFeCoNi-HEAに対して行い、その電気抵抗及び組織変化を調べた。CrMnFeCoNi-HEAには、非晶質合金に内在するパルス通電で結晶化促進される局所構造は存在しないことが明らかになった。今後は電子顕微鏡観察などから、パルス通電による配向性変化や焼鈍による電気抵抗変化の原因を追及する。HEAでは低温になると自由エネルギー低下に対する高エントロピーの効果が発揮されなくなることを受けて、CrMnFeCoNi-HEAでは800K以下の焼鈍により相分離が進展することが報告されている。相分離に向けた局所構造を低温焼鈍に生じさせた状態でのパルス通電による組織変化を検証することによっても、HEAの局所構造の具体的原子配置やその動的安定性について明らかにしていく。
|
Research Products
(5 results)