2019 Fiscal Year Annual Research Report
Charge symmetry breaking from the neutron-neutron scattering length determined by using virtual photons
Publicly Offered Research
Project Area | Toward new frontiers : Encounter and synergy of state-of-the-art astronomical detectors and exotic quantum beams |
Project/Area Number |
19H05181
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
石川 貴嗣 東北大学, 電子光理学研究センター, 助教 (40400220)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 荷電対称性の破れ / 核力 / バリオン・バリオン相互作用 |
Outline of Annual Research Achievements |
「荷電対称性」は強い相互作用がもつ基本的な対称性であり、陽子 (p) と中性子 (n) を入れ替えても核力や原子核の性質は基本的に変わらない、とされてきた。素過程で考えると荷電対称性は u クォークとd クォークの入れ替えに対する対称性であり、その破れの度合いは高々 u クォークとd クォークの質量差、電磁相互作用の効果の違い程度である。ところがいまΛバリオンを含む原子核の質量から、これらでは説明できない大きな荷電対称性の破れ、すなわちΛp 間とΛn 間の相互作用の違い、が提唱されている。核子どうしの散乱の場合でも、アイソスピン 1 が保証される pp 散乱と nn 散乱の散乱長は電磁相互作用の効果を補正すると -17.3±0.4 fm、-18.9± 0.4 fm であり、これらの差はクォークの質量差で説明がつく 0.3 fm よりずっと大きくなっているように見える。 これまでの nn 散乱長の決定方法には問題があり、本当に pp と nn で散乱長が異なっているのか定かではない。そこで本研究では、nn 散乱の散乱長を精密に決定し、電磁相互作用の効果を補正したppの散乱長と比較する。これにより荷電対称性の破れを定量的に議論し、破れの起源を解明することを目指す。直接nn散乱実験を行うことがほぼ不可能であるためnnの散乱長の決定は間接的なものにならざるを得ない。そこで電子非弾性散乱(e,e')の仮想光子γ*を用いたγ*d→π+nn反応のnn不変質量に対する微分断面積からnn散乱長を精密に決定する。この手法が可能であることを理論的な考察で示し、まとめた学術論文を Physical Review C 誌に投稿した (arXiv:2003.0249)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
チャンネル結合のメソン・バリオン散乱を記述する理論モデルを使って、実光子のγd→π+nn反応における0°に放出されたπ+メソンに対する微分断面積 d^2/dΩπ/dMnn (Ωπは放出されるπ+メソンの立体角であり、Mnn は nn 不変質量を表す)から nn 散乱長と有効距離が決定できることを示した。入射エネルギーはπN相互作用の抑制と閾値以下のπ+メソン光生成の振幅の寄与が十分小さい 250 MeV が最適であることがわかった。nn終状態相互作用の寄与はπ+メソンが 0°に放出される場合が最もエンハンスされることがわかった。d^2/dΩπ/dMnn の形状は、規格化係数を除けば、π+メソン光生成の振幅や NN 相互作用のポテンシャルによらず、理論の不定性ほとんどなしに散乱長と有効距離が決定できることがわかった。 必要な nn 不変質量の決定精度を得るためには、実光子ではなく電子散乱の仮想光子を用いる必要がある。仮想光子を用いると実光子に現れる横偏極成分 T だけでなく、縦偏極成分 L、縦偏極・横偏極干渉成分 LT、縦偏極・縦偏極干渉成分 TT が現れる。仮想光子と同じ方向に放出されたπ+メソンでは、LT、TT 成分の寄与は 0 となるが、現実的な電子散乱のセットアップでは、L 成分の寄与を無視することはできない。しかしながら L 成分の寄与が縦偏極量εに比例するので、同じ運動量移行 Q2 のもとで様々なεに対して微分断面積を測定することで、実光子に対応する横偏極成分の微分断面積が得られることを示した。 これらの理論的な考察を学術論文としてまとめ、Physical Review C 誌に投稿した (arXiv:2003.0249)。
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Strategy for Future Research Activity |
前年度の理論的な考察で、基本的な実験の方針はすでに定まった。有効な入射光子ビームのエネルギーを 250 MeV とし、光子ビームと同じ方向に放出されたπ+メソンを検出する。高分解能での実験が必要であるため、電子散乱の仮想光子をビームとして利用し、L 成分の分離のために、同じ Q2 で複数の異なるεに対する微分断面積を測定する必要がある。 引き続き実際の MAMI 施設における最適な入射エネルギーの決定、スペクトロメータの配置などの検討を終わらせる。できるだけスペクトロメータの配置変更や入射電子ビームのエネルギーの変更の回数を減らすとともに、マシンタイムが短くなるような最適化を行う。すでにドイツ MAMI 施設に対して、実験計画の実施を検討してもらうように働きかけているが、正式な実験提案書の提出をできるだけ早く行い、本年度中の実験実施に持ち込む。自身が経験を積むためにも、同施設において東北大原子核物理研究室が中心となって行う電子非弾性散乱実験にも参加する。
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Research Products
(22 results)