2019 Fiscal Year Annual Research Report
Development of multiple scattering Compton cameras for high sensitivity cosmic MeV observations and nuclear medicine
Publicly Offered Research
Project Area | Toward new frontiers : Encounter and synergy of state-of-the-art astronomical detectors and exotic quantum beams |
Project/Area Number |
19H05185
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
小高 裕和 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 助教 (50610820)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | ガンマ線天文学 / 宇宙元素合成 / ガンマ線検出器 |
Outline of Annual Research Achievements |
天文学における未開拓の電磁波帯域である中間エネルギーガンマ線、すなわち0.1-10 メガ電子ボルト (MeV) の帯域には、原子核が放出するラインガンマ線が存在し、超新星爆発や連星中性子星の合体、ブラックホールなどの高エネルギー天体における核反応の唯一の直接的プローブを提供する。このエネルギー帯域は、物質の起源を探るために極めて重要であるにもかかわらず、ほとんど観測的成果が得られていない。本研究では、MeVガンマ線天文学開拓のため、大有効面積を実現できる液体アルゴンTime Projection Chamber (LArTPC) を気球搭載し、同一検出器で反重陽子検出によるダークマター間接探索とコンプトンカメラによるMeVガンマ線観測を同時に行なうGRAMS実験を推進している。 2019年度にはGRAMS実験の基本計画を策定し、米国コロンビア大学において第1回目のコラボレーション会議を実施した。また、本研究費の助成により、東京大学において「第2回MeVガンマ線天文学研究会」を実施し、理論・実験の両面において、MeVガンマ線天文学の情報共有と議論を深めることができた。 LArTPCを用いたコンプトンカメラの実現のためには、多重コンプトン散乱イベントの正確な解析が鍵を握っている。現在、ダークマター直接検出のために開発された気液二相型アルゴンTPC「ANKOK5」のデータを用いてイベント解析手法の開発を進めている。さらにこれと並行してイベント再構成のための深層学習プログラムの開発準備を行なっている。新学術研究領域内も含む共同研究として、本研究で開発を進めているシミュレーションコードによる検出器応答モデルをシリコンピクセル検出器やテルル化カドミウムストリップ検出器へ展開する研究を進めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究計画は以下の通り、GRAMS実験の立ち上げを米国の研究者と国際協力で進め、日本側が責任担当するデータ解析において、基本概念実証の準備を順調に進めることができた。 GRAMS実験は、液体アルゴンTime Projection Chamber (LArTPC)をコンプトンカメラとして用いる。現在、その基本概念の実証のため、シミュレーションおよび実機データの解析を進めている。特に、複数コンプトン散乱イベントの解析アルゴリズムの開発が重要課題となっており、2019年度においてそのための準備を着実に進めることができた。シミュレーションはASTRO-H衛星に搭載された軟ガンマ線検出器などの半導体コンプトンカメラのために研究代表者が開発したComptonSoftを拡張し、LArTPCに対応させ、ガンマ線応答の計算を行なった。また実機での評価を行うためダークマター直接検出のために開発された気液二相型アルゴンTPC「ANKOK5」のガンマ線データを利用して、複数コンプトンイベント抽出プログラムの開発に取り組んでいる。これは、ベイズ統計を用いて、大量の波形データから自動的に複数散乱イベントを抽出するプログラムである。これと並行してイベント再構成のための深層学習プログラムの開発準備を行なっている。新学術研究領域内も含む共同研究として、ComptonSoftの半導体検出器応答の計算をシリコンピクセル検出器やテルル化カドミウムストリップ検出器へ適用する研究を進めた。シリコンピクセル検出器応答の研究については学術論文を投稿中である。 GRAMS実験の推進のために、米国コロンビア大学におけるコラボレーション会議、リモートによる定期的な会議、関連研究会などを行い、気球搭載用ハードウェアに向けた準備を進めている。
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Strategy for Future Research Activity |
2019年度に引き続き、コンプトン散乱イベントの解析アルゴリズムの開発を推進する。複数コンプトン散乱イベントの抽出プログラムはテスト実装が概ね完成していることから、2020年度は本実装と同プログラムの検証を行ない、次にイベント再構成と画像再構成のアルゴリズムの研究に移行する。イベント再構成には深層ニューラルネットワークによる機械学習を用いる。アルゴリズムの検証や最適化のため、また機械学習の訓練・検証データとして、モンテカルロシミュレーションと実機データの両方を利用する。シミュレーションの検出器モデルは現実的な想定が必要であり、米国コロンビア大学の共同研究者らと連携して、精密な検出器モデルの実装を行なう。 GRAMSの具体的な観測計画の策定のために、全天MeVガンマ線観測のシミュレーションを実施し、従来よりも精密な達成感度予測、成果予測を行なう。そのために必要な画像再構成法をすでに研究代表者が実現しているアルゴリズムを拡張させる形で開発する。また医療など実用分野への展開も考慮してソフトウェアの開発を進める。
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