2019 Fiscal Year Annual Research Report
先端的宇宙X線検出器で迫る多価重イオンの量子電磁力学
Publicly Offered Research
Project Area | Toward new frontiers : Encounter and synergy of state-of-the-art astronomical detectors and exotic quantum beams |
Project/Area Number |
19H05187
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Research Institution | The University of Electro-Communications |
Principal Investigator |
中村 信行 電気通信大学, レーザー新世代研究センター, 教授 (50361837)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 多価重イオン / 量子電磁力学効果 / 相対論効果 / 電子ビームイオントラップ |
Outline of Annual Research Achievements |
電気通信大学レーザー新世代研究センターの電子ビームイオントラップTokyo electron beam ion trap (Tokyo-EBIT)は、少数電子多価重イオンの生成・観測を可能とする国内唯一の実験装置である。このTokyo-EBITに宇宙観測用先端的X線検出器の一つであるシリコン(Si)/テルル化カドミウム(CdTe)半導体コンプトンカメラを設置し、多価重イオンの二電子性再結合過程から放出されるX線の直線偏光度測定を行った。 コンプトンカメラは、コンプトン散乱を利用することで、入射光子のエネルギーのみならず偏光度を観測することが可能である。本研究で用いたコンプトンカメラは、宇宙ガンマ線観測を目的として「ひとみ」衛星に搭載されたものの同型機であり、本来はエネルギー数100 keV程度におよぶ軟ガンマ線領域の放射を観測することを目的として開発された。検出器全体は、光子入射側に設置された32層のSi半導体検出器、その周りを囲う横側4面×2層と後方8層のCdTe半導体検出器から構成される。各層にはピクセル状に分割された電極が取り付けられ、層内での光子の反応位置を特定する。これを今回、75keV程度のより低エネルギーの硬X線領域に適用させるため最適化し、コンプトンカメラ全体で13312に及ぶチャネルの較正を詳細に行った。 並行してTokyo-EBITでは、共鳴過程であり目的とする二電子性再結合過程からのX線と、非共鳴過程であり今回の主目的ではない放射性再結合過程からのX線を分離するため、共鳴/非共鳴の電子ビームエネルギー値を瞬時に切り替える高速運転が可能なように制御系の最適化を行った。その結果、ビスマス(原子番号83)元素のリチウム様多価イオン(電子が3つのBi^(80+)イオン)について、二電子性再結合過程により放出されるX線の直線偏光度測定を得ることに成功した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、宇宙観測のために開発された先端的X線検出器を、実験室における原子物理実験に適用することにより、多価重イオンのエネルギー準位や相互作用に現れる相対論的効果・量子電磁力学効果をこれまでにない角度・精度で検証することが目的である。その研究対象として今年度は、リチウム様ビスマス多価イオンの二電子再結合過程により放出されるX線の直線偏光度を選定した。このX線には電子-電子間相互作用における量子電磁力学効果であるブライト相互作用の寄与が極めて大きいことが、研究代表者の以前の研究により知られているため、本研究の最大の目的と言える課題である。しかし、既存の検出器による既存の方法には限界があり、更なる研究の深化が妨げられていた。 今年度は、上の「研究実績の概要」に示した作業・実験を行うことにより、目的としたリチウム様ビスマス多価イオンの二電子再結合過程により放出されるX線の直線偏光度の測定に成功した。しかも、過去に他の手法を用いて測定された結果と比較して、統計的不確かさを大幅に改善することに成功し、これまでに調べられたことのないブライト相互作用のゼロ周波数近似の適用限界に迫ることが可能となった。この点では、計画通りの進展、もしくは計画以上に進展しているとも評価できる。しかしながら、直線偏光度の絶対値を求め系統的不確かさを求める過程において、検出器のエネルギー較正等に若干の問題が見つかったため、絶対値を求め系統的不確かさを評価するまでには残念ながら至らなかった。その点で「おおむね」順調に進展しているとの区分とした。検討により問題点、改善すべき点は明らかとなってきているので、以下に記す推進方策により来年度解決できるものと考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
上の「現在までの進捗状況」に記したように、今年度は本研究の最大の目的としているリチウム様ビスマス多価イオンの二電子性再結合過程により放出されるX線の直線偏光度測定を行った。宇宙観測のために開発された先端的X線検出器を本研究のために最適化し適用した結果、既存の検出器によるこれまでの研究における統計的不確かさを大幅に改善することに成功したが、検出器のエネルギー較正等における問題により、絶対値を求め系統的不確かさを評価することができなかった。令和2年度はまずこの問題を解決する。 そのためには、コンプトンカメラ全体で13312に及ぶチャネルの較正を再検討し、最適化を行う必要がある。また、絶対値の導出には、観測対象としているX線と等しいエネルギーにおいて、無偏光X線および完全偏光X線に対する検出器の応答関数を得る必要がある。しかしながら、そのようなX線光源を用意することは現実的に難しいため、シミュレーションを用いてそれらの応答関数を導出する必要がある。そのシミュレーションも13312に及ぶチャネルの振る舞いを詳細に再現させるため膨大な作業が必要となるが、その最適化作業も行う。加えて実験の方では、観測対象としているX線と可能な限り近いエネルギー分布を持った無偏光X線や100%に近い偏光度を持ったX線の観測を行い、検出器の較正やシミュレーションを評価する。これらの作業により、これまでに調べられたことのないブライト相互作用のゼロ周波数近似の適用限界に迫ることが可能となる。 加えて、本研究のもう一つの大きな柱である超伝導転移端マイクロカロリーメータによる高エネルギー分解能X線観測を行う。水素様キセノンイオン(原子番号54)のKX線など30keV程度の高エネルギーを持つX線に対して高エネルギー分解分光を行い、ラムシフトなどそのエネルギー準位に現れる相対論的効果、量子電磁力学的効果を検証する。
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[Presentation] 放射性再結合X線の偏光度測定2020
Author(s)
沼舘直樹, 大石晋平, 都築豊, 渡辺伸, 内田悠介, 米田浩基, 小高裕和, 高橋忠幸, 櫻井誠, 渡邉裕文, 中村信行
Organizer
日本物理学会第75回年次大会
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[Presentation] 二電子性再結合X線の偏光度測定II2019
Author(s)
大石晋平, 沼館直樹, 都築豊, 渡辺伸, 内田悠介, 米田浩基, 小高裕和, 高橋忠幸, 櫻井誠, 渡邉裕文, 中村信行
Organizer
日本物理学会2019年秋季大会
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[Presentation] 二電子性再結合X線の偏光度測定I2019
Author(s)
都築豊, 渡辺伸, 大石晋平, 沼館直樹, 櫻井誠, 渡邉裕文, 中村信行, 内田悠介, 米田浩基, 小高裕和, 高橋忠幸
Organizer
日本物理学会2019年秋季大会
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[Presentation] Si/CdTeコンプトンカメラの原子物理実験における偏光測定への応用2019
Author(s)
都築豊, 渡辺伸, 大石晋平, 沼館直樹, 櫻井誠, 渡邉裕文, 中村信行, 内田悠介, 米田浩基, 小高裕和, 高橋 忠幸
Organizer
原子衝突学会第44回年会
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