2019 Fiscal Year Annual Research Report
強相関電子系における負ミュオン捕獲過程でみる電子多体効果
Publicly Offered Research
Project Area | Toward new frontiers : Encounter and synergy of state-of-the-art astronomical detectors and exotic quantum beams |
Project/Area Number |
19H05192
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Research Institution | Japan Atomic Energy Agency |
Principal Investigator |
髭本 亘 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構, 原子力科学研究部門 原子力科学研究所 先端基礎研究センター, 研究主幹 (90291103)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 強相関電子系 / ミュオン / 金属非金属転移 |
Outline of Annual Research Achievements |
多くの金属中で、電子はそれぞれが孤立した自由電子状態として振る舞うわけではなく、相互作用を及ぼし合いながら運動する。これは電子の軌道が制限されるなどのためスクリーニングが不完全になり、クーロン相互作用が無視できなくなることによる。このため電子の多体効果が本質的に重要となり、様々な物性に現れてくる。このような「強相関電子系」において、どのような電子状態が実現するのかは極めて複雑であり、全貌を理解することは容易ではない。多体効果によりしばしば電子はバンド的描像通りに振る舞わず、時にバンド的には金属であるはずのものが絶縁体化するなど劇的な電子状態の変化を示す。このような電子状態の変化を、特に物質の内部の状態を直接捉えることは困難である。 本研究では電子系における強い電子相関による電子状態の変化が負ミュオンの捕獲過程やカスケード過程にどのような影響を及ぼすのか、そして逆に捕獲過程から電子状態の情報を得ることができるのかを検証していくことを目的としている。ミュオンは物質内部の様々な状態を検出する。特に負ミュオンの捕獲過程やミュオニックX線は何らかの形で電子状態の変化が反映されるものと考えられ、これに基づき金属非金属転移、価数揺動などの電子状態変化とミュオニックX 線の構造を求めていく。本研究は電子系への新しいプローブを提案するものであると同時にミュオニックX線測定による元素分析に対しても基礎的な情報を与える。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、「電子系における強い電子相関に基づく多体効果による電子状態の変化が負ミュオンの捕獲過程やカスケード過程にどのような影響を及ぼすのか、ミュオニックX線の構造から検証する」という、新たな枠組みであり、原子分子分野と強相関(多体)電子系研究の融合により新規分野を開拓するものである。実験では試料に負ミュオンの照射を行い、その際生じるミュオニックX線を複数の検出器で測定、特に酸素と遷移金属に捕獲される負ミュオンの数の比を求めることで、負ミュオン捕獲に対しての電子状態が与える影響を求める。これにより負ミュオン捕獲過程およびカスケード過程への理解を深め新たなプローブとしてのミュオニックX線の可能性を探る。 昨年度は主として4Kまでの範囲で試料を冷却した状態で負ミュオンを打ち込み、ミュオニックX線測定と同時に負ミュオンスピン回転緩和測定を同時に行うことが可能な装置の構築と試料の選定、準備を行った。基幹となる装置は液体ヘリウムを用いた冷却器である。これは試料の冷凍能力に優れ、温度コントロールなど取り扱いが簡易である小型のヘリウムフロー式冷凍機を用いた。試料の冷却には試料ホルダーや熱シールドなど熱伝導度の高い金属を設置することになるが、試料周囲にはバックグランドとなるX線の影響を少なくするためにアルミニウムに統一するなどミュオニックX線測定に適した冷凍装置を構築した。この装置により、金属非金属転移を示すV2O3や、価数の変化を伴う相転移を起こすFe3O4におけるミュオニックX線構造の温度変化を測定、電子状態との関連を求めていく。測定はJ-PARCにおいて行う計画であり、既に必要なビームタイムを確保しているととともに、試料の準備も済んでおり、近日中に予定の測定が可能な段階に来ている。
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Strategy for Future Research Activity |
実験試料となるV2O3やFe3O4はこれまで数多くの研究がなされている物質であるが、まだ完全な理解はなされていない。どちらの強い電子相関に基づく相転移を起こすことが知られ、典型例として重要であると考えられることから開拓的研究の意味合いが強い本研究では最適なものであると考える。試料に負ミュオンの照射を行い、その際生じるミュオニックX線を複数の検出器で測定、特に酸素と遷移金属に捕獲される負ミュオンの数の比を求めることで、負ミュオン捕獲に対しての電子状態が与える影響を求める。これにより負ミュオン捕獲過程およびカスケード過程への理解を深め新たなプローブとしてのミュオニックX線の可能性を探る。 また負ミュオンスピン回転緩和測定を同時に行うことで、磁気的、あるいはZ-1不純物の側面からの研究も行う。これは通常行うことが出来ない稀薄極限の不純物サイトでの研究に相当し、不純物問題としても興味深い。そのためμSR分光器が設置されているJ-PARCのD1エリアにおいて行うことで、ミュオニックX線測定と同時にμ-SR実験を行い、相転移のその場での決定や磁気的状態の検証をしていく。X線測定は従来と同様にGe 検出器を用いる。 これらの測定は令和2年度の実施を予定しており、すでにビームタイムを確保しており実施を待つ段階となっている。
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