2019 Fiscal Year Annual Research Report
ミュオン特性X線元素分析イメージングによる価数・電子状態の可視化
Publicly Offered Research
Project Area | Toward new frontiers : Encounter and synergy of state-of-the-art astronomical detectors and exotic quantum beams |
Project/Area Number |
19H05199
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Research Institution | Toyota Central R&D Lab., Inc. |
Principal Investigator |
梅垣 いづみ 株式会社豊田中央研究所, フロンティア研究領域 梅垣研究グループ, --- (20638522)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | ミュオン / リチウムイオン電池 / X線 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、リチウムイオン電池を対象に、ミュオン特性X線により、同一元素の電子・価数状態の判別するイメージング技術の確立を目的としている。イメージング技術は、新学術研究領域で開発している検出器を用い、ミュオン特性X線元素分析の手法を用いる。この部分は本領域のB01班や検出器開発班のコラボレーションによるところが大きい。一方で、リチウムイオン電池電極における同一元素の電子・価数状態の判別は、本研究のオリジナリティである。リチウムが電極間を移動する際に、正極に含まれる遷移元素はその価数を変える。この価数変化を捉えると、間接的にリチウムの量・分布を知ることができる。また、電池反応に寄与できる活性なリチウムと、寄与しない不活性なリチウム(析出した金属)を区別することができる。次年度、この研究を進めるための実験を実施するミュオンのビームタイムを獲得することができた。調整した試作電池の破壊分析の結果から、実験条件を検討し定めることができた。 また、3つの実験に参画し、情報収集ができた。(1)アレイ型検出器を用いたミュオン特性X線測定:従来のGe半導体検出器の数十倍高い検出効率で測定が可能だった。これまで積み上げてきた基礎的な知見を用いて、計測速度を上げることで、対象の現象の拡大が期待される。(2)電池材料の負ミュオンスピン緩和実験:電池材料中のリチウムが拡散するのを、負ミュオンスピン緩和法で捉えられることを確かめた。これにより、単一試料に負ミュオンを照射して、Ge半導体検出器では特性X線を捉え、シンチレーターで崩壊した電子を捉える、両者を組み合わせた実験が実現可能であることを確かめた。(3)新学術領域研究が主導のイメージング実験:イメージング技術を初めて経験した。リチウムイオン電池を試料にするには、エネルギー分解能向上が課題である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
ミュオン特性X線の実験を実施するビームタイムの提案を前年度にしていたが、審査の結果、ビームタイムを獲得することができなかった。そのため、初年度は計画していた実験を実施することができなかった。しかし、最終年度に実験をするためのビームタイムを確保することができたので、計画を遂行可能と期待される。 また初年度に新学術領域研究が主体のイメージング技術を用いたビームタイムに参画することができた。しかし限られたビームタイムのなかでは、他の公募研究が提案している実験が主要テーマとなり、リチウムイオン電池の実験の実施には至らなかった。リチウムイオン電池を対象にするには、エネルギー分解能と低エネルギーであることの課題を解決する必要があるため、検出器の開発が進展する段階との間にギャップがあることが問題である。したがって、初年度は実験に基づいた研究成果を上げることはできなかった。最終年度に新学術領域研究のビームタイムで、リチウムイオン電池を対象としたイメージング実験を実施できるかは不確定なので、イメージング技術が実施できる段階で重要になる基礎的な知見を得るために、まずは一次元の従来の検出器でできる実験遂行に注力して、準備を進めておく。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の目標は(1)ミュオン捕獲過程に基づく電子・価数状態とミュオン特性X線の関係を明らかにし、化学状態の非破壊可視化技術を確立し、これによりリチウムイオン電池内の電極の充電状態の均一性/非均一性や、表面に析出する不活性リチウムの可視化を実現すること、と、(2)新学術領域研究で取り組む、宇宙線検出器やイメージング技術により、電子・価数状態の3次元マッピングへ展開することとしていた。現状の遅れを取り返し、研究を進めるためには、(1)のイメージング測定が実現に向けた基礎実験をまず遂行することに注力する。また、前年度検討した、(3)ミュオン特性X線測定に派生する別手法との組み合わせによる分析の活用も可能な限り進める。(2)はコロナ禍の影響を受けて、不確定な要素が多いため、年度内に実施できない可能性もあるが、やむを得ない。 (1)は(2)につながる、基礎的な理解として非常に重要であり、従来のGe半導体検出器を用いて遂行できるという利点もある。特に、リチウムイオン電池の電極表面に析出する不活性リチウムの可視化を、電池の容量と結び付けて、電池の(不)活性度合いを調べる手法に発展させるためのビームタイムを取得済みである。この基礎的な研究は、イメージング技術が確立した暁には、リチウムイオン電池内のイメージングによる3次元マッピングで、電池の(不)活性度合いの調査に不可欠である。 また、最終年度として、研究成果をまとめ、さらに続く新学術領域研究を広げるために、学会や研究会等で広く紹介する。年度初めはコロナ禍で世界規模で学会等の人の交流が絶たれているが、リモート会議のような新しい形態の学会も開かれており、うまく活用していく。
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Research Products
(1 results)