2019 Fiscal Year Annual Research Report
Analysis of pathological mechanisms of neuropsychiatric disorders associated with cytoarchitectural changes
Publicly Offered Research
Project Area | Constructive understanding of multi-scale dynamism of neuropsychiatric disorders |
Project/Area Number |
19H05227
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
久保 健一郎 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 准教授 (20348791)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 環境要因 / 細胞構築 / フラッシュ・タグ法 / 死後脳組織 / 行動解析 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、主に発生段階の環境要因による細胞構築の変化が、どのように「マルチスケール現象」として脳全体への影響を及ぼし、精神神経疾患の病態に結びつくのかを明らかにする。本年度、マイクロアレイ解析によって、細胞構築の変化を伴う胎児期虚血のモデルマウスの脳において発現が変化している分子の候補を得た。また、生後の胎児期虚血のモデルマウスと対照群のマウスの脳から、ゲノムDNAを抽出したのち、網羅的に解析したメチル化データについて、解析を進め、メチル化変化の原因となっている分子の候補を得た。 新たに、胎生12.5日に虚血を誘導する、異なる時期の虚血の影響について条件検討と解析を行った。これまでの予備的な解析によって、マウスの脳に胎生16.5日に虚血を誘導した場合とは異なる細胞構築の変化を生じる可能性が示唆された。成熟後のマウスの行動についても解析を開始した。 これらの動物モデルの解析を行う際に、細胞構築の変化を鋭敏に捉えるため、最近開発されたフラッシュ・タグ法を改変した新たな手法を用いて、脳内の異なる領域の細胞移動を同時に可視化するための条件検討を行った。その結果、これまで均一に見えていた新皮質における細胞移動が、実は発生の時期と脳の領域によって、違いが大きいことが明らかになった。 上記の動物モデルで観察された細胞構築の変化は、実際のヒト患者において生じている細胞構築の変化との比較検討を行う必要がある。倫理委員会からの承認を得たのち、統合失調症の患者の死後脳組織において生じている細胞構築の変化についての解析を開始した。また、日本国内では、自閉スペクトラム症に罹患した患者の死後脳組織はほとんど存在しないため、米国ハーバード大学のアンダーソン博士との共同研究を開始した。2020年1月には、新学術領域からのサポートを受け、渡米して自閉スペクトラム症に罹患した患者の死後脳組織の観察を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
最近開発されたフラッシュ・タグ法を改変した新たな手法を用いて、脳内の異なる領域の細胞移動を同時に可視化したところ、これまでは均一に見えていた新皮質における細胞移動が、実は脳の領域によって、かなり違いが大きいことを見出した。当初予期していなかった、予想外の方向への研究の進展ではあるが、これらの知見は、今後、動物モデルにおいて生じる細胞構築の変化を解析する際に、その基盤として役立つと考えられる。また、この領域の他の研究者にとっても、基盤となる所見とデータを得ることができたと考えられる。 また、異なる時期の虚血の影響についての解析においても、当初予期していなかった細胞構築の変化を生じる可能性が示唆された。分子的な解析については当初の計画通り進めることができている。倫理承認に時間がかかることが予想された、ヒト患者において生じている細胞構築の変化との比較検討についても、想定より早く承認が得られたため、その後、比較検討に着手することができた。さらに日本国内に死後脳組織がほとんど存在しないために当初は予定していなかった、自閉スペクトラム症に罹患した患者の死後脳組織については、新学術領域からのサポートを受けることができたこともあって、観察することができた。これらの進展が得られ、さらにこれまでに得られた所見に基づきながら、現在進行中の解析を進めることによって、本研究の目的である精神神経疾患の病態に結びつく「マルチスケール現象」の機構を解明していくことができると期待される。
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Strategy for Future Research Activity |
現在進行中の解析を継続、進展させる。これまでに確立したマウス子宮内電気穿孔法を用いた部位特異的神経細胞ラベル法(Tomita*/Kubo*, et al., Hum.Mol. Genet., 2011、Ishii*/Kubo*, et al., J. Neurosci., 2015)に加えて、最近開発されたフラッシュ・タグ法を改変した新たな手法を用いて、神経細胞を蛍光タンパク質でラベルして、独自の胎児期虚血モデルの脳に生じる組織学的変化を明らかにしていく。これらのモデルの脳組織を用いて行った、マイクロアレイ解析や、ゲノムDNAのメチル化解析によって、分子的変化の候補を得ているため、その検証を続けていく。現在、着手しているヒト患者において生じている細胞構築の変化との比較検討についても、継続し、進展を得る。これらの、現在進行中の解析を進めることによって、本研究の目的である精神神経疾患の病態に結びつく「マルチスケール現象」の機構を解明していく。
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