2019 Fiscal Year Annual Research Report
卵子成熟過程のインテグリティを支えるWntの原始卵胞活性化メカニズム
Publicly Offered Research
Project Area | Ensuring integrity in gametogenesis |
Project/Area Number |
19H05249
|
Research Institution | Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
高瀬 比菜子 国立研究開発法人理化学研究所, 生命機能科学研究センター, 研究員 (40754528)
|
Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2021-03-31
|
Keywords | 原始卵胞 / 卵母細胞 / Wntシグナル / 不妊 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、卵巣の生理的条件下でWntシグナルが原始卵胞の活性化に果たす役割を明らかにすることを目標としている。 SF1-Cre系統を利用したWls cKOマウスでは、胎児期より顆粒膜細胞系譜からのWnt分泌が抑制される。2週齢から8週齢のWls cKO卵巣では発育卵胞数が有意に減少していたが、原始卵胞数はコントロール群と同等であった。また、出生直後の卵母細胞数は有意差が見られなかった。この実験結果から、Wntシグナルは正常な原始卵胞の活性化に必須のシグナルである一方で、活性化のトリガーになるような誘導的な役割を果たしていないことが判明した。また、WT1-CreERT2系統の利用により、出生後の顆粒膜細胞で特異的なWls cKOを作出し解析した。SF1-CreのWls cKOマウスと同様に、原始卵胞活性化に伴う顆粒膜細胞の分化成熟が阻害され、発育卵胞数が有意に減少した。すなわちWls cKOマウスの表現型は出生後のWntシグナル抑制によるものと結論付けられる。WntレポーターマウスR26-WntVis系統の解析から、原始卵胞の前顆粒膜細胞が最もWntシグナルを強く受容していることが判明し、Wntシグナルはオートクリン型に機能する可能性が示唆された。 野生型卵巣のホールマウント培養系にWnt阻害剤を添加すると顆粒膜細胞の分化が抑えられ、卵胞の顆粒膜細胞層の厚さが有意に減少した。反対に、Wls cKO卵巣培養系にWnt活性化剤を添加すると顆粒膜細胞の分化成熟をほぼ完全にレスキューしたことから、卵胞形成時に古典的Wntシグナルの存在が必須であることが示された。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
変異マウス系統の作出に時間がかかると予想されたが、マウスの導入と交配は当初の計画通りに進んでいる。年度内に予定していた解析についても大きなトラブル等はなく、新規の実験だったホールマウント培養系の立ち上げも順調に進行した。実験が進行する中で、顆粒膜細胞がWntリガンドを産生し顆粒膜細胞自身が受容するというオートクリン型の様式が明らかとなったため、Wntリガンドや低分子化合物を添加して卵母細胞の休眠・活性化をコントロールするというような単純な実験は成り立たないと判断し、これら一部の実験は中止とした。一方で、当初の研究計画にない機能獲得型のマウス変異体の作出や、来年度に実施予定のscRNA-seq用の予備実験、論文の投稿準備などを進めており、今後も順調な研究の進展が期待される。本年度の研究の達成度は良好であると考える。
|
Strategy for Future Research Activity |
実験計画段階では、原始卵胞の活性化においてWntシグナルは誘導的な役割を果たすと予想していたが、本年度得られた全ての実験結果はWntシグナルの「許容的な」役割を示唆している。これまでの解析は機能欠失型の変異マウス系統を用いたものが中心だったが、次年度は機能獲得型の変異マウス系統の解析を行う。また、既に原始卵胞の活性化に関与すると考えられている細胞内シグナル伝達系、mTORシグナルとの上下関係または相互作用の有無を検証し、総合した結果を学会および論文にて発表する。 顆粒膜細胞の分化においてWntシグナルが必要性はこれまでの実験結果より明白だが、予備的な実験結果は、Wls cKOマウスでは卵母細胞の成熟も一部抑制されていることを示唆している。次年度予定のscRNA-seqにより、Wntシグナル下流に存在する顆粒膜細胞分化の分子メカニズムを明らかにし、さらに卵母細胞の成熟に関わる顆粒膜細胞由来の因子を同定することを目指す。
|
Research Products
(1 results)