2019 Fiscal Year Annual Research Report
シングルセル解析によるヒト精子エピゲノムプロフィール多様性の検討
Publicly Offered Research
Project Area | Chromatin potential for gene regulation |
Project/Area Number |
19H05254
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
岡田 由紀 東京大学, 定量生命科学研究所, 教授 (60546430)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 精子クロマチン / ATAC-seq / CUT&Tag |
Outline of Annual Research Achievements |
精子クロマチンはヒストンが脱落し、プロタミンと呼ばれるタンパク質に置換されて高度に凝縮する。精子クロマチン凝縮異常は男性不妊の一因であり、近年は精子エピゲノム変化と子供の疾病リスク増大との関連性も示唆されているが、そのクロマチン構造は未解明の点が多い。さらに精子エピゲノム変化が、精子全てで均一に起こっているのか、一部の精子集団で顕著に変化しているのか未検討である。本研究提案ではシーケンシングを用いてヒト精子クロマチンを定量することで、ヒト精子エピゲノムプロフィールの個人間および精子間多様性を明らかにすることを目的とした。 ATAC-seqとCUT&Tagによって、ドナー間における精子クロマチンの不均一性を検討した。39検体でATAC-seqを施行した結果、検体が3つのグループA/B/Cに分けられることを見出した。AとCには、体外受精前の精液分画で精製・回収(A)あるいは除去(C)された検体が濃縮しており、Bはこれらの中間であったことから、ATAC-seqの結果は精子の品質を反映していると考えられた。CUT&Tagでは、H3K4/K27メチル化が発生関連遺伝子群に濃縮していた一方、K9メチル化はサテライトリピート領域に濃縮しており、マウス精子の知見と同じであった。ATAC-seqの結果と合わせて解析した結果、グループCは、K4/K27メチル化に富む遺伝子領域のクロマチンが「緩んで」いることが分かった。さらにシングルセルATAC-seqを行った結果、個々の精子間で顕著なクロマチンの不均一性が確認できた。 以上の結果は、精子クロマチンが精子の品質を示唆する新たな指標になり得ることを示している。今後はシングルセルATAC-seqの検体数を増やして精子間の不均 一性の詳細を検討する予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初計画していたChIL-seqをCUT&Tagに変更したことで、バルクのヒストンメチル化解析が可能になった。その結果、ヒト精子においてH3K4me3は遺伝子領域に、H3K9me3はメジャーサテライト領域にそれぞれ顕著な残存が見られ、我々がマウス精子で明らかにした所見と一致する結果となった。さらにH3K27me3は遺伝子領域とメジャーサテライト領域の両方に局在しており、後者はヒト精子の特徴として報告されている先行研究の知見と一致した。このことはすなわち、ヒトとマウスでは精子ヒストンの残存割合が大きく異なるが、これらのゲノムエレメントへの修飾ヒストン残存は共通しており、これら以外の領域のヒストン残存量に動物種差があることを示唆している。 ATAC-seqは、当初シングルセル解析を中心に行う予定であったが、費用の問題と、バルクATAC-seqにおいて検体間のheterogeneityが予想以上に大きかったことから、バルクATAC-seqの検体数を増やし、さらにクリニックでの精製手法が異なる検体を解析することで、精製ステップとクロマチン状態、さらに精子クオリティとの相関を検討することを主眼とした。その結果、精製度が高く治療に用いられる精子ほどクロマチンが「固い」傾向が見られ、さらにCUT&Tagの結果と照らし合わせると、精製度が高い精子で固いのは、メチル化ヒストンが残存する遺伝子領域であることが明らかとなった。 一方コロナウイルスの影響で、クリニックからの新規検体入手やCyTOF受託先との密な連絡に支障をきたしたため、CyTOFによるヒストン解析は行わず、フローサイトメトリー解析のみの施行とした。
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Strategy for Future Research Activity |
今後はシングルセルATAC-seqの検体数を増やして精子間の不均一性の詳細を検討する予定であるが、研究代表者が新たな科研費に採択されたことによる重複制限のため、本研究自体は2020年11月をもって廃止となった。
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