2019 Fiscal Year Annual Research Report
ケモテクノロジーを活用した脱ユビキチン化酵素USP8の作用機構の解明
Publicly Offered Research
Project Area | New frontier for ubiquitin biology driven by chemo-technologies |
Project/Area Number |
19H05289
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Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
福嶋 俊明 東京工業大学, 科学技術創成研究院, 助教 (70543552)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | ユビキチン / エンドサイトーシス / クッシング病 / USP8 / STAM |
Outline of Annual Research Achievements |
脱ユビキチン化酵素の一つubiquitin-specific protease 8(USP8)は、エンドサイトーシスによって細胞内に取り込まれた膜タンパク質をエンドソームで脱ユビキチン化し、これらの細胞膜へのリサイクリングを促進する役割を果たすことが示唆されている。また、USP8の遺伝子変異は難治性疾患クッシング病の原因となることも知られている。しかし、野生型USP8がどのようなしくみでエンドソーム周辺で活性化するか、変異型USP8がどのようなしくみでクッシング病を引き起こすかは、不明である。本研究ではこれらのしくみを分子レベルで解明することを目的としている。 初年度は、まず、野生型USP8の活性制御機構の解明を進めた。解析の結果、USP8は分子中央にWWドメイン様の構造を有しており、このドメインが酵素活性を担うUSPドメインに結合することにより、USP8が基質タンパク質のユビキチン鎖を認識しにくくなることが明らかとなった。この自己阻害ドメインとUSPドメインの分子内結合が何らかの機構によってエンドソーム周辺で解除され、USP8の活性が適切に制御されている可能性が考えられた。 一方、クッシング病を引き起こす変異型USP8についても作用機構を調べた。その結果、変異によってUSP8はユビキチン結合タンパク質STAMと恒常的に複合体を形成するようになり、これがバソプレシン受容体V1bを過剰に脱ユビキチン化、これによって下垂体細胞ではV1bを介したACTH分泌が促進され、クッシング病の発症に寄与するというしくみが明らかとなった。さらに、USP8-STAM結合阻害物質を開発すればクッシング病の治療に役立つ可能性が考えられたため、これらの結合をTR-FRET法で測定する系を構築した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初、野生型USP8がエンドソームで活性化する機構として、エンドサイトーシス経路でエンドソームに運ばれてきたEGFRによってUSP8がチロシンリン酸化され、これを契機にUSP8が活性化する機構を想定していた。しかし研究の過程でUSP8が自己阻害機構を有していることに気づいたため、本研究ではまず自己阻害のしくみを詳細に明らかにし、次にそのしくみがエンドソーム周辺で解除されることによってUSP8が活性化するとことを示すことにした。新たなアプローチで研究を進めることとしたため一部の研究計画に変更が生じたが、概ね順調に成果があがってきている。 一方、変異型USP8がクッシング病を引き起こす分子機構は、初年度の研究で概要を明らかとすることができ、次の段階として、USP8-STAM結合阻害物質を開発してクッシング病治療薬のリード化合物を得るステージに進んだ。USP8とSTAMの結合を高感度に検出できるアッセイ系の構築にやや時間を要したが、最終的には、結合阻害物質のハイスループットスクリーニングを実施するために十分な感度のアッセイ系を構築することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
野生型USP8がエンドソームで活性化する分子機構として、エンドソームでUSP8に相互作用する何らかのタンパク質によって、自己阻害ドメインとUSPドメインの相互作用が解除され、USP8が活性化するしくみを想定している。そこで、そのエンドソームタンパク質を同定し、活性化の分子機構の解明を進めることとする。具体的には、USP8結合タンパク質のうちエンドソームに局在するものに着目し、それらがUSP8の自己阻害ドメインとUSPドメインの相互作用に及ぼす影響を調べ、目的のエンドソームタンパク質を同定する。続いて、そのエンドソームタンパク質が自己阻害ドメインとUSPドメインの相互作用を解除する分子機構を詳細に調べる。 変異型USP8がクッシング病を引き起こすしくみとして、変異型USP8-STAM複合体がエンドソームとは異なる小胞体などの部位に存在し、そこで過剰に活性化している可能性が予備実験から示唆されている。そこで、変異型USP8-STAM複合体の異常な局在化機構・過剰活性化機構を明らかにする。局在化機構の解析には、複合体を明瞭に検出できるBiFC法などを用いる。次に、変異型USP8-STAM複合体内に含まれる小胞体などへの局在化配列を特定、その配列を認識する局在制御タンパク質を同定するなどにより、変異型USP8がエンドソーム以外で活性化する機構の解明を進める。一方、我々は、下垂体培養細胞やマウスのUSP8遺伝子配列をゲノム編集により疾患型へと改変する試みも進めている。得られた細胞・マウスがクッシング病の表現型を示すことを確認した後、この表現型がこれまで明らかとしてきた疾患発症メカニズムを介して生じていることを証明する。さらに、USP8-STAM結合阻害物質の探索を実施し、得られた物質を疾患モデル細胞・マウスに投与し、クッシング病の表現型が改善するか検討する。
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Research Products
(7 results)