2019 Fiscal Year Annual Research Report
ナノ空間高分子化学で実現する力学応答材料の発動分子科学
Publicly Offered Research
Project Area | Molecular Engine: Design of Autonomous Functions through Energy Conversion |
Project/Area Number |
19H05381
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
細野 暢彦 東京大学, 大学院新領域創成科学研究科, 講師 (00612160)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 多孔性金属錯体 / 多孔性配位高分子 / 高分子材料 / ナノ空間材料 / MOF / 力学物性 |
Outline of Annual Research Achievements |
本課題では、ナノメートルサイズの無数の細孔を有する多孔性金属錯体(MOF)の細孔へ高分子が自発的に包接し、取り込まれる性質を利用して、動物の筋組織の発動メカニズムに倣った新しい発動システムを開発することを目的とする。 ゼオライトやMOFといった結晶性の多孔性物質は、無数のナノサイズの細孔(空隙)を有しており、それらが秩序をもって配列した構造を有している。これらの多孔性材料は、その多孔性を利用してガスや小分子の吸着、分離、貯蔵といった目的で広く研究・開発がなされてきた。一方、最近我々はガス等の小分子に限らず、巨大な高分子までもがMOF細孔内へ自発的に侵入し、安定化されることを発見した。本研究ではこのMOFへの高分子包接現象を材料化学へと応用し、高分子の吸着エネルギーを巨視的な材料全体の変形、すなわち運動エネルギーへと変換する新しい分子システムの開発を行った。 本課題では、1. MOFへの高分子包接現象の熱力学・速度論の解明、2. MOF/高分子複合材料による発動システムの開発と刺激応答性の評価を目的として研究を進めている。本年度は、項目1について検討を行い、メカニズムに関する多くの知見を得ることができた。高分子のMOFへの包接過程の熱量測定を行ったところ、この過程が発熱過程であることがわかった。また、用いる高分子の分子量依存性について検討を行ったところ、興味深いことに分子量400万を超える超巨大高分子までもが、MOFの細孔内へと自発的に侵入し、包接されることを見出した。本事実は、項目2で予定している複合材料合成に有用な知見となる。また、高分子がMOF細孔へ侵入する速度について見積もったところ、明らかな分子量による違いが見られた。これらの知見を総合することで、次年度の刺激応答材料合成への重要な足がかりとする。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
現在までの研究の進捗は概ね計画通りである。先述のとおり、項目1に関しては本年度にほぼ完了し、次年度は項目2の高分子/MOF複合体による刺激応答材料の開発を推進する。熱量測定の一部に関しては、実験に時間がかかるという制約から、次年度も引き続き測定を続ける予定である。これまでの実験から、MOFへの高分子の最大吸着量、適切な溶媒、温度条件、高分子の種類、MOFの種類といった様々な要素についての情報が得られている。次年度の複合体合成では、これらの要素の組み合わせで最も適切な条件を決定することから始める予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度より高分子とMOFを混合した複合材料を合成する。高分子がMOF内へ包接、脱包接(すなわち吸着・脱着)されることで、複合体の体積は収縮・膨張すると期待される。この原理を実証するために、複合体の力学特性を測定する。具体的には、引張り試験、または動的粘弾性(レオロジー)試験を行い、高分子包接時と無包接時の物性の違いを検証する。また、これまで明らかにされている包接速度の分子量依存性等の知見と合わせ、発動システムとして機能するために必要な最適な条件(用いる高分子の分子量、MOFの結晶サイズ、配合比率、動作温度)を決定する。研究構想どおりに発動システムが得られた後は、そのエネルギー変換効率の測定を検討する。変換効率は、今後開発した発動システムを他のシステムと比較評価する上で重要な指標となる。
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