2019 Fiscal Year Annual Research Report
Electrochemically-driven self-standing molecular engine hydrogel modeled on Spasmoneme motion
Publicly Offered Research
Project Area | Molecular Engine: Design of Autonomous Functions through Energy Conversion |
Project/Area Number |
19H05400
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Research Institution | Nagasaki University |
Principal Investigator |
相樂 隆正 長崎大学, 工学研究科, 教授 (20192594)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 電気化学発動系 / ヒドロゲル / 創発 / 急速収縮伸長 / 酸化還元 / ナフィオン / ビオロゲン |
Outline of Annual Research Achievements |
・ビオロゲンの還元二量化による動的駆動力を実測するため、ビスビオロゲンの水中でのビオロゲンラジカルカチオン間の親和的相互作用を定量した結果、室温で116 meVに相当する駆動力が得られることが分かった。 ・ビオロゲンをペンダントしたポリ-L-リジン(PLLV)をグルタルアルデヒドで架橋して得たヒドロゲル(PLLV-gel)の還元収縮を加速する、または収縮率を高める要因として、ペンダント率依存性やアニオン性高分子との混合などの効果を、電気伝導性フィラーを用いる効果と共に検討した。その結果、水中浮遊状態では、ペンダント率が20~50%で収縮率と収縮速度とも最大となった。ポリスチレンスルホン酸とのイオンコンプレックス型ヒドロゲルを合成し試験した結果、電子移動は速くなったが、酸化還元収縮と再膨張は著しく阻害された。 ・ゲル化前に混合する方法で、PLLV-gelに金ナノ粒子を含有させ、金電極に押し付けて電気化学測定した結果、酸化還元電流が1桁近く上昇した。粒子が凝集していないことは吸収色から明らかであり、金ナノ粒子は、離散的に存在しながらも電子移動のバイパス経路形成の役割をしていることがわかった。浮遊状態での還元収縮の飽和時間は半分に短縮されたが、電極上では、電極からの電子移動は長距離伝搬せず、ゲル全体の巨視的な伸縮を加速する作用まではないことがわかった。これによりワイヤー化の必要性が指摘できた。なお、この金ナノ粒子の効果は、グラフェンナノプレートレットでも同様であった。 ・古典的イオンゲルであるナフィオンにパーフルオロビオロゲンを取り込ませ、酸化還元応答を分光電気化学的に解析したところ、ビオロゲンが還元集積すると、電子移動に加えイオンと水の移動が強く阻害されることがわかった。これにより、ペンダント構造を理想化することの重要性を指摘できた。 ・その他、複数のタイプのゲルを新たに合成した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
・水中では50年来の課題であったビスビオロゲンの相互作用を定量することに成功した成果は重要であり、得られたエネルギー値は、様々なビオロゲン酸化還元系の挙動の理解を加速する波及効果をもつ。 ・PLLV-gelの還元収縮については、ペンダント率の精密設定に成功し、多数の構造パラメータに関して収縮‐再膨張への効果を明らかにできた。収縮と再膨張をともに加速するという結果までは至らなかったが、再酸化膨張の加速に必要な要素を浮き彫りにすることができた。とりわけ、金ナノ構造体を用いた時の電流値増幅は顕著であり、ワイヤー化が効果的である見通しがついた。実際に、複数の方法でゲル中でワイヤー化反応を行うための条件が明らかになりつつある。 ・イオンゲルとしての水和ナフィオン中でのビオロゲン還元と二量化ひいては集積化の効果を調べるため、パーフルオロビオロゲンを試料(プローブ)に選んだ。ナフィオンのパーフルオロ疎水領域との相互作用を持ち、ナフィオン中で半固定化ビオロゲン中心として振る舞うからである。パーフルオロビオロゲンの酸化還元特性を詳細に調べ、計算科学の予想との対応が明らかにできた。 ・糖類を用いたイオン配位架橋ゲルをはじめとして複数の試料の準備が整い、動的挙動の検討に着手した。 以上の成果と進捗を総合し、当初の研究目標(電極からの電子移動を、サイト間相互運動やフィラーの助けで加速かつ広域化し、再膨張を大幅加速し、電位制御した電極上で、規定した方向に並進するヒドロゲルを創製する。また、燃料(推進剤)としての還元剤を酸化して駆動力を得ることによって、外部回路に繋ぐ必要なく、種々の基板上で自律的に自立並進運動するヒドロゲルを創製する。)に照らして、今後への準備状況も含め、おおむね順調な進捗と判断できる。
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Strategy for Future Research Activity |
・還元した後の再酸化膨張を格段に高速化する必要がある。そのための手法として、予めゲル内に埋め込んだ金ナノ粒子を種とし、金のナノワイヤーをゲル内で成長させることを実現する。 ・基板上で自律的に自立並進運動できる高分子ゲルを、PLLV-gelを基体として構築することに本格着手する。ヒドロゲル内で、電子ホッピングやポリマー鎖の二次構造変化をナノレベルで起こし、活性中心の集積や浸透圧差による脱水を誘導する。動きを創発的に相乗し、アメーバや生物最速の収縮を起こすスパズモネームを手本とした機序の運動を達成する。アメーバの仮足運動を模倣するには、収縮‐膨張と連動して、ゲルの基板表面への付着と脱付着を制御することが不可欠である。そのメカニズムとして、電気二重層構造の電位依存性をも生かした静電相互作用の制御を基礎とする非ファラデー過程による付着-脱付着、及びファラデー過程によって表面露出基の基板表面との相互作用の制御を基礎とする付着-脱付着の両面から攻究する。この検討においては、接触界面における界面張力の大幅な変化を誘導することが不可欠であり、ゲル表面および基板表面の設計とともに、巨視的付着力を実測することが鍵となる。この実測は、特型電気化学セルと、表面張力計の改造によって構築する機構の組み合わせで実現させる。このようなin situな付着力測定は前例がなく、新しい挑戦である。 ・最も重要な最終目標の一つは、方向性がある並進運動であり、その実現には界面張力の局所的な変化を用いる必要がある。この実現に向けて、いったんゲルを離れ、水中電極上油滴を用いたモデル検討を準備している。これは、ゲル‐基板相互作用の変化に頼るだけでは方向性を与えることができないことを踏まえ、側面(モデル系では油水界面)での急激かつ大きな界面形状とシッフネス変化を駆動力として用いようとする取り組みに他ならない。
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Remarks |
アウトリーチ: (1) 長崎大学による県内高校生オープンラボ実験講義2019にて、相樂が「分子ロボットへの挑戦」と題するアクティブラーニングと模擬実験付き講義を高校生対象に行った。 (2) 長崎大学による出張クラスラボ2019にて、相樂が「なぜ水滴やシャボン玉は丸いのか―表面張力による発動へ」と題する模擬実験付き講義と研究紹介を行った。
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Research Products
(13 results)