2020 Fiscal Year Annual Research Report
化学グラフ理論による物質解析および物質探索
Publicly Offered Research
Project Area | Discrete Geometric Analysis for Materials Design |
Project/Area Number |
20H04643
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
辻 雄太 九州大学, 先導物質化学研究所, 助教 (80727074)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 金属クラスター / グラフ理論 / 触媒 / 中心性 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、グラフ理論で重要な役割を果たす隣接行列と分子の強束縛近似におけるハミルトニアン行列との類似性を利用し、物質解析および物質探索を行う。グラフ理論上の知見を、分子デバイスや金属クラスターのハミルトニアン行列に適用することを目的として行った。 本年度は主に金属クラスターの研究を行った。化学の世界では、分子内で最もエネルギーの高い電子や、それを受け入れることのできる空の軌道の重要性がよく知られている。一方、分子内で最もエネルギーの低い電子やそれを保持する軌道、すなわちLOMO(Lowest occupied molecular orbital)の性質はあまり注目されていなかった。本研究課題で、我々はそれの利用の可能性を探った。グラフ理論により、LOMOは、どの原子が原子のネットワークに最も大きな影響を与えているかを数値化できることが明らかとなった。LOMOは、原子の集合体であるクラスターの中で、どの原子が最も重要なのかを突き止めるための良い指標となることを明らかにした。一方で、原子の集合体においては、ある原子と他の原子との間の相互作用がどれだけ強いかが中心性の尺度になりうる。我々は、sブロック金属クラスターを例に、クラスター内の原子のLOMO係数とその原子のクラスターへの結合エネルギーとの間の相関関係を調べた。その結果、両者にはかなり良い相関があることがわ明らかとなった。また、サブグラフ中心性のようなより洗練された中心性の指標を用いれば、さらに相関性を高め、金属クラスターにおける原子の吸着の問題にアプローチすることができることを示した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究では、グラフ理論で重要な役割を果たす隣接行列と分子の強束縛近似におけるハミルトニアン行列との類似性を利用し、物質解析および物質探索を行っている。グラフ理論上の知見を、分子デバイスや金属クラスターのハミルトニアン行列に適用することを目的としており、本年度は分子デバイスと金属クラスターの研究のいずれにおいても大きな進展があった。 金属クラスター:グラフ理論における中心性の一つである固有ベクトル中心性と分子軌道との関係を示し、中心性が関係する物性を分子軌道計算に基づいて予測することが可能であることを示した。 分子デバイス:ヘテロ原子を含まないπ 共役系は2部グラフで理解することができ、その固有値スペクトルは原点に対して対称である。しかし、ヘテロ原子を導入することによりスペクトルの対称性が破れる。我々は対称性の破れが分子伝導性に及ぼす影響をザックスグラフを用いて明らかにした。
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Strategy for Future Research Activity |
クラスターや表面の固有値スペクトルに対するモーメント解析を実施し、本研究課題が目的とする物質解析・物質探索を達成する。n次のモーメントはハミルトニアンのn乗の対角和に等しい。各次数のモーメントを計算することで複雑な構造に対する固有値スペクトルからローカルな幾何学的特徴を抽出することが可能である。金属クラスターや金属表面のモーメント解析を行うことで、クラスターや表面における触媒反応において、クラスターに求められるトポロジカルな条件を明らかにし、高機能触媒の設計へとつなげたいと考えている。
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Research Products
(11 results)