2020 Fiscal Year Annual Research Report
New geometric interpretation of internal structure of materials and its application to elucidation of the deformation mechanism
Publicly Offered Research
Project Area | Discrete Geometric Analysis for Materials Design |
Project/Area Number |
20H04647
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Research Institution | Sendai National College of Technology |
Principal Investigator |
鯉渕 弘資 仙台高等専門学校, その他, 名誉教授 (00178196)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 材料科学 / Finsler幾何 / 異方的変形 / 統計力学モデル / Monte Carloシミュレーション / ポリマー材料 / スキルミオン |
Outline of Annual Research Achievements |
この研究は (1) 一軸応力によるスキルミオンの異方的変形の起源 (2) 強誘電体の圧電効果,強磁性体における磁歪現象の統一的描像 をその柱として出発した。(1)の対象は日本のあるグループが実験(と理論)でこの分野を牽引している新しい対象である。令和2年度は,(2)の課題の中でポリフッ化ビニリデン(PVDF)を対象に,応力―電場と分極―電場曲線の既報告の実験結果を,Finsler幾何(FG)モデルを用いてMonte Carlo法で計算し論文発表した。そのFGモデルは申請者らが開発・研究してきた方法で連続体モデルから出発するため微分幾何学の概念が適用できるという特長を持つ。これにより,異なった対象にも同じモデルが適用できる。従って,PVDFに対するFGモデルはセラミクス強誘電体や磁歪現象にも適用できる。今後はこれらに取り組む。 (1)の課題についても,現在(R3年4月末)その計画の最後の段階にある。スキルミオンの異方的変形に対する最近の研究の傾向としては,従来の現象論的な(Landau-Ginzburg型の)モデルよりも,統計力学的なミクロな交換相互作用やキラル磁性に特有な相互作用定数が異方性を帯びるためとする様々なモデルが提唱されている。その理由は,これらのミクロな相互作用を使ったモデルの方が現象論的なモデルよりも,現象の起源の理解という意味では明快なため,と思われる。しかし,現在まで,それらの相互作用定数がなぜ異方的になるかの研究はあるものの,それが組み込まれたモデルは無い。FGモデルは相互作用定数が動的に異方性を帯びる最初のモデルといえ,異方的な相互作用定数をinputとして仮定する最近のモデリングの方法と比べてもより基本的である。このFGモデルの方法を,スキルミオンの異方的変形を説明する新しいモデルの仲間入りをさせるべく取り組んでいる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
既述のとおり,(2) 強誘電体の圧電効果,強磁性体における磁歪現象の統一的描像,において,ポリフッ化ビニリデン(PVDF)の応力―電場と分極―電場曲線の実験結果を,Finsler幾何(FG)モデルを用いたMC計算で再現した。PVDFに電場をかけると電場方向に縮む現象を,電場によって配向したPが引き起こす「弾性的性質の異方性」と見る新しい視点である。ひずみの大きさは数%とそれほど小さくはないが,計算結果は実験データと驚くほどよく一致している。しかも,Hamiltonianは弾性エネルギーと分極ベクトルP間の交換相互作用型エネルギーを加えたような単純なモデルである。このことから,従来の現象論的モデルとは大きく異なり,FGモデルの数値計算では,inputは電場でoutputが応力―電場と分極―電場曲線になり,実験にも近い。もちろん,Pの相互作用定数などは適切に調節する。既述のスキルミオンの異方的変形のFGモデルと同じく,弾性エネルギーの相互作用定数が動的に異方性を帯びることからPVDFの異方的変形が説明できるのである。従って,PVDFと同じFGモデルで,セラミクス強誘電体の変形も磁性体の磁歪現象も原理的には説明できる。ただし,これらのひずみは,特に磁歪現象では巨大磁歪効果といわれているものでも0.1%以下と小さいため,数値計算上精度良く計算するのは簡単ではない。一方,FGモデルの物理的意味は何か,そもそも従来のモデルで分かったことを再現していない,という指摘をよく受ける。しかし,ポリマー,セラミクス,金属といった全く異なった材料の異なった現象が同じモデルで説明できるとしたら,これらの異なった現象の間の共通な性質:分極ベクトルや電子スピンの配向によってもたらされる弾性的性質の異方性,が理解できたことになり,これが従来のモデルでは分からなかった新しいこと,と主張していきたい。
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Strategy for Future Research Activity |
既述のとおり,今後は課題(1)におけるスキルミオンの異方的変形をFGモデルで説明するという計算結果の論文化,課題(2)のPVDFのモデルをセラミクス強誘電体と磁性体磁歪現象に適用することである。 このFGモデルの特徴は動的に変化する相互作用定数である。では,なぜ相互作用定数が動的に変動すると多くの実験結果が再現できるのか,PVDFの直感的なモデルで説明したい。ポリマーの弾性エネルギーkxx+交換相互作用エネルギーa(1-ss)を考える。ここでk,aは相互作用定数,x,sはそれぞれ原子変位,単位長さの分極ベクトルを表わすとする。ただし,粗視化した概念であり実際の原子や分極ではない。FGモデルではこのkがその場所のsの値に応じて動的に変化して様々な値を取る。このとき,kばかりでなくxも動的に変化する。統計力学的モデルであるからそれらの様々な値は平均される。ここで,比a/kの意味は系の特徴的長さの2乗になることに注意すると,結局,kが動的に変化してそれを平均するということは,この特徴的長さを動的に変化させて様々な長さのスケールからの寄与を取り込んで平均化することになる。解析学でいえばフーリエ変換して運動量空間で積分することに対応する。これは正に,ミクロな揺らぎを取り込んでマクロな物理量を計算する統計力学的モデルの目指すものが実現できているといえる。 このFGモデルの考え方は分配関数を使って計算するような統計力学的モデルにしか適用できないかというと,そうではなく,ラプラシアンを使った微分方程式にも適用できる(スキルミオンのDM相互作用を考えればラプラシアンに限らない)。従って,Navier-Stokes(NS)方程式に適用すれば,流体と物質の相互作用も粘性抵抗の異方性という観点からNS方程式をそのまま使って研究できる。今後はFGモデリングの方法を微分方程式モデルにも適用していきたい。
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