2020 Fiscal Year Annual Research Report
Gas-crystal phase reaction of organic vapochromic crystals and elucidation of the mechanism by powder crystallography
Publicly Offered Research
Project Area | Soft Crystals: Science and Photofunctions of Easy-Responsive Systems with Felxibility and Higher-Ordering |
Project/Area Number |
20H04661
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Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
植草 秀裕 東京工業大学, 理学院, 准教授 (60242260)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | ベイポクロミズム / フォトクロミズム / 結晶構造解析 / サリチリデンアニリン |
Outline of Annual Research Achievements |
有機結晶に代表される分子性結晶は、結晶外部の環境変化により自在に構造/物性変化し「ソフトな結晶」として注目されている。結晶構造変化に対応した独特の物性変化や機能発現を用いて、他の手法では検出できない環境変化の「センサー物質」が設計可能である。本研究では、結晶構造科学によるベイポクロミズムの原理を構築し、それに基づいたベイポクロミズム有機結晶を創製するため、結晶合成および三次元の詳細な分子構造・結晶構造変化の解明を中心に研究展開する。特に気相-結晶相反応を利用し気体分子を結晶内に取り込むことで、結晶構造、および結晶中の分子の電子状態変化を誘起し、それらにより結晶が色変化するという原理に注目し、ベイポクロミズム有機結晶の創製・解明を行う。蒸気による結晶転移で単結晶が崩壊しても粉末結晶解析法を駆使して結晶構造を明らかにして研究を推進することは大きな特徴である。 特に結晶中に蒸気の分子が侵入するというメカニズムに立脚したベイポクロミズム発現を目指す。蒸気分子を結晶中に挿入するためには、蒸気と結晶中の分子と間に強い相互作用が必要であるため、固相-気相の酸・塩基反応系を想定する。塩形成により結晶構造が変化するとともに、結晶中の呈色分子はアニオン化し色変化が誘起される。さらに種々の外部刺激による固相脱塩化を組み合わせ、クロミズム系の確立と構造解析によるメカニズム解明を目的とする。 本年は、フォトクロミック化合物であるサリチリデンアニリン類でカルボキシ基を持つ誘導体結晶が水性アンモニア蒸気と反応しアンモニア分子を取り込むことでフォトクロミック特性が出現・消失する現象を見いだし、2段階のアンモニア分子取り込みを結晶構造変化から明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、塩基性蒸気と結晶との気相-結晶相反応により、蒸気分子を結晶内に吸収する現象を鍵としている。そのため、第1年度は、気相-結晶相反応で、プロトン移動(酸・塩基反応によるプロトン転移)を起こし、クロミズムを発現する系として、塩基性蒸気(蒸気側)と、反応により呈色する結晶(結晶側)を探索するところから始めた。キノロン系抗菌剤分子群は、プロトン供与基としてカルボキシ基を持つ有色有機結晶であり、本系の結晶側物質として有望であると想定し、継続して分子探索を行っている。塩基性蒸気としては、アンモニア、モルホリン等を想定している。探索は多様な酸性・塩基性官能基を持つ分子、あるいは分子骨格を拡張した呈色分子の結晶(結晶相)に範囲を広げて、気相-結晶相反応性ベイポクロミズム反応の可能性を調べる。今年度の実績として報告したサリチリデンアニリン誘導体のフォトクロミック反応性のスイッチング(出現・消失)はこの探索から見いだされたものである。この研究は、結晶相のキャラクタリゼーションは単結晶X線結晶構造解析で行ったが、さらに温度変化粉末X線測定(XRD-DSC)や熱測定(TG/DTA)、分光測定など多様な分析手法を駆使して行っている。アンモニア分子は有害蒸気であり、これを吸収して検出するベイポクロミズム結晶の実現は意義があり、さらにこれらの物質の固相貯蔵、分離技術につながる可能性もある。 以上より、今年度の研究実施は目的とする気相-結晶相反応によるベイポクロミズム結晶を見いだし、その結晶構造と物性を多様な分析手法から解析してメカニズムを明らかにしており、順調に推移しているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
引き続き、気相-結晶相反応によるベイポクロミズム結晶の探索を行う。気体分子を結晶内に取り込むための結晶内の強い相互作用としてイオン性の酸塩基相互作用を第一に想定するが、強い水素結合やハロゲン相互作用も視野に入れた探索を行う。ターゲット分子はキノロン系抗菌剤分子で新しい候補化合物を検討しており、展開を期待している。一方、結晶相のキャラクタリゼーションはX線結晶構造解析に限らず、粉末X線測定(XRD)や熱測定(TG/DTA)、分光測定を駆使して調べる必要がある。気相-結晶相反応の結果、単結晶状態が崩れ粉末化する結晶、あるいは大きな単結晶が得られない系の場合は、放射光粉末X線回折データを測定して極限構造解析である粉末未知結晶解析を行う予定である。 結晶構造(分子配列)の検証、結晶色変化の理論的説明としてはDFT計算を行う必要があり、連携研究により分光測定と解析、理論計算によるサポートを行う。
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