2020 Fiscal Year Annual Research Report
発光性ネットワーク錯体の励起構造の解明
Publicly Offered Research
Project Area | Soft Crystals: Science and Photofunctions of Easy-Responsive Systems with Felxibility and Higher-Ordering |
Project/Area Number |
20H04662
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Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
河野 正規 東京工業大学, 理学院, 教授 (30247217)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 配位高分子 / 結晶化学 |
Outline of Annual Research Achievements |
励起構造の研究対象となった既往の錯体はいずれも孤立分子の分子性結晶であり,分子内での構造変化に焦点があてられていた.今回ホスト-ゲスト型強発光性ネットワーク錯体を用いてこれまで研究されてこなかった空間を介した電荷移動を伴う励起状態の構造研究を目的とする.令和2年度は 出発物質であるBrネットワーク錯体および加熱により生成した強発光性Brネットワーク錯体の励起スペクトルおよび発光寿命・量子収率の温度可変データを測定し基礎物性データを収集し,励起波長依存性などその場観察法による光誘起粉末X線回折のための条件の最適化を行った.温度可変の分光学的データから主な発光の起源は三重項経由の燐光由来であることを解明した.また,発光性Brネットワーク錯体と同形のClネットワーク錯体の合成も行い,構造解析・各種分光測定を行った.発光性Brネットワーク錯体とそれと同形であるClネットワーク錯体をX線構造解析の結果を基にモデル化し計算したところ空間を介した電荷遷移の存在が示唆された.また,Clネットワーク錯体のネットワーク骨格は発光性Brネットワーク錯体と同形構造であるが,Cl体には溶媒であるDMSOが包接されておりBr体と比較して低発光性であることが判明した.本研究に関連する成果の一部を錯体化学討論会・日本化学会春季年会で報告した.現在これらの成果に関して投稿中である.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
出発物質であるBrネットワーク錯体および加熱により生成した強発光性Brネットワーク錯体の励起スペクトルおよび発光寿命・量子収率の温度可変データを測定し基礎物性データを収集し,励起波長依存性などその場観察法による光誘起粉末X線回折のための光照射条件の最適化を行った.銅錯体は三重項経由の燐光や遅延蛍光(TADF)を発光することが知られているが,温度可変測定の結果燐光が主成分であることを解明した.また,発光性Brネットワーク錯体の発光の起源を調べるために,Br体とは異なる加熱法ではなく溶液系の合成ルートで発光性Brネットワーク錯体と同形のClネットワーク錯体の合成に成功した.Cl体の単結晶X線構造解析を行ったところ溶媒であるDMSOが包接された構造であることが判明した.Cl体は発光性Br体と比較すると低発光性であることが発光スペクトル・寿命測定の結果示唆されたが,それはゲスト・ホスト間のエネルギー移動よりもDMSOへのエネルギー移動が優先的に起こるため光らなくなったと考えられる.Br体とCl体の拡散反射法による吸収スペクトルを測定したところ,ゲストであるCuX2-錯体が本来示さない領域にそれぞれ異なる吸収を示したことから,同じネットワーク骨格を有していてもゲストのアニオンとホスト骨格との相互作用によって吸収スペクトルが異なっていることから空間を介した電荷遷移の存在が示唆された.そこで,発光性Brネットワーク錯体とそれと同形であるClネットワーク錯体をX線構造解析の結果を基にモデル化し計算したところ空間を介した電子遷移の存在が支持された.過渡吸収スペクトルによる励起状態の検討を行う予定であったが装置の故障により延期せざるを得なくなった.
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Strategy for Future Research Activity |
昨年度の結果を受けて本年度は,次の研究を引き続き行う.①粉末X線回折による光誘起定常状態の予備測定:発光性Brネットワーク錯体の結晶は微結晶として得られるため通常の単結晶X線構造解析は難しいため,基本的に粉末X線回折法により構造解析を行う.光照射による熱の影響を考慮し,まず光照射前に様々な温度で錯体(II)の粉末X線回折のデータを測定し,リートベルト解析により構造パラメータの変化をチェックする.次に分光測定から得られた励起種の寿命と量子収率が最大になる条件で,光照射により光定常状態にある粉末試料のX線回折データを測定する.さらに,同じ試料を用いて光を遮断し完全に基底状態に戻った状態で,元の構造に戻るかどうか検討する.この時,放射光や光照射による試料のダメージを慎重に検討し,構造変化がダメージによらないことを確認する.以上を考慮し,励起状態でのヤーン・テラー歪みや構造変化を分析する.②発光性Clネットワーク錯体の単結晶を用いて光照射実験を行い,照射前後での構造変化について精密に検討を行う.Cl体は低発光性であるが,Br体とは異なる構造変化が起こると予想している.③粉末X線回折による光誘起定常状態の本測定:上記予備測定から得られた知見を活かしSPring-8で論文投稿用の本測定を行い,発光性Brネットワーク錯体の励起状態の構造決定を行う. 理論計算による励起構造の検討:発光性Brネットワーク錯体の励起状態の構造を周期境界条件付き理論計算により最適化し,分光データと粉末X線構造解析から得られた結果を比較することにより励起構造を解明し,発光の起源を明らかにする.
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Research Products
(15 results)